光(河瀬直美監督)のレビュー・感想・評価
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音声ガイドを通じて、誰しもに降り注ぐ光を描き出した秀作
以前、音声ガイド上映会に参加し、その鑑賞の形に固定観念を覆されたことがある。まさに「映像世界の内部へ足を踏み入れる」感覚。河瀬監督も自作の音声ガイド制作に際し同様の驚きを抱き、そこから知られざる舞台裏に光をあてたストーリーが構想されていったのだとか。
音声ガイドの脚本を手がける主人公は、皆の意見を参考にしながら、少しずつ的確な表現力と言葉を獲得していく。それは同時に、彼女の中で「観る」の定義がグッと広がり、作品が描いているものをより精神的なレベルで理解できるようになったことの証左とも言える。
誰もが大切な人のために何かをしたいと願い、あるいは懸命に何かをしているつもりになっている。ヒロインがぶち当たるのもその壁だ。誰もが同じ目線で光を見つけ、その輝きを共有できているだろうか。その次元へ到達するにはどうすればいいのだろう。 河瀬監督の視座は音声ガイド、障害、老いという枠組みを超え、世界全体を貫く普遍的なテーマさえ描いているように感じた。
音声ガイドという仕事の描写が、世界を認識する行為の本質に迫る
テレビには視覚障害者向けの副音声があるが、映画にもそれに近い「音声ガイド」があるのを、この映画で初めて知った。音声ガイドのテキストを作る人は、登場人物の表情や動作、背景となる屋外や室内の様子など、通常の音声だけでは分からない視覚的要素を、自らの言葉で伝えようと試みる。
音声ガイド制作者と、モニターとして協力する視覚障害者たちのやり取りから、視覚を使わずに認識する世界はどのようなものだろうかという想像を促される(先天性の場合と、後天的に視力を失った人とでは当然異なるだろう)。そこからまた、私たちが映画を見て解釈する行為、さらには、人が知覚を使って世界を認識する行為についてさえ、改めて考え直す機会をもたらしてくれる映画だと感じた。
恋愛ドラマだったの
記念すべき1,000本目の投稿作品!!
気が付いたらこの作品が映画評投稿1000本目であった。この記念すべき一本がこの作品であってというのは極めて象徴的である。この作品は目の不自由な方たちが映画を観る事のサポートを受ける「音声ガイド」と言う職業?の方たちにスポットを与えた作品。と、書いてしまうと凡庸なテーマなようだが、実はここにスポットを与えた事で河瀬監督は映像を見る行為を超えて感じる、浴びる、味わう事の出来る可能性について言及した極めて重要な視点を持った作品であるという事は忘れてはいけない。映像を作るもの、映像を見る事の出来ないものに伝えようとする者、そもそも映像を見る事に出来ない障害を持った方々、この三者のどの視点に立つかでこの作品の持つ意味は変わってくるのだが、そもそもどの視点に立っても変わらぬ視点、それこそが河瀬監督の意図した超越した「光」がテーマになっている事に我々が気付かされるように誘導されている。この仕掛けこそがテーマなのだ、と実感する。映画の評を書くに当たって映画を観るのではなく、ましてや読み込むのでもなく、まさに浴びる、感じる、触れる、その光の持つ意図を我々に強く認識させる作品であった。まさに映画にとってエポックな作品と言えよう。
【”弱視、盲目の方でも、”音声ガイド”を通じて、世界の光を感じる事が出来る”。河瀬直美監督の視覚を越えて、映像をつたえる大切さを描いた作品。】
■人生に迷いながら単調な日々を送っていた美佐子(水崎綾女)は、とある仕事をきっかけに、弱視の天才カメラマン・雅哉(永瀬正敏)と出会う。
命よりも大事なカメラを前にしながら、次第に視力を奪われてゆく雅哉の葛藤を見詰めるうちに、美佐子の中の何かが変わり始める。
◆感想
・永瀬正敏の弱視になりながらも、カメラマンとして生きようとする姿とその所作に魅入られる作品である。
・映画製作の際に、”音声ガイド”を作る人々の姿も、キチンと描かれている。
ー 画面が見えなくとも、その映画の内容を伝えようとする人々の努力。-
<人生で多くのもの(今作では視力)を失っても、大切な誰かと一緒ならきっと前を向けると信じさせてくれると思わされた作品。
河瀬直美監督の映画愛に溢れた作品である。>
夕焼け
静かな映画
光のあてかた
重なり合う「光」というタイトルの意味。
視覚障害の方に携わる仕事をしている身としてはかなりグサグサくるセリフの多い映画だった。
「押し付けがましい」
「想像力が足りないのはどっちかしら?」
たぶん福祉やボランティア活動に携わる人間は常に自問すべき問題提起。広義でみれば子育てとか人材育成にも当てはまりそう。
本作でスポットの当たっている「音声ガイド」というものは何かや誰かへの支援そのものに似ている気がする。
押し付けがましいものは駄目、出過ぎた支援も不足のある支援も、支援される側は歯がゆく感じる。
そこを探って双方にベストの落とし所を探っていく明確な答えのない作業だ。
音声ガイドに関しては視覚情報を言語情報に直するという意味では言語の翻訳に近いんだなあと本作を観て思った。あまりスポットが当たってこなかった分野だと思うので、この映画を通して音声ガイドのことを意識できるようになれて嬉しい。
ストーリーについては、ロマンスという触れ込みだったけど、ロマンスというよりは人間同士の相互理解に関する側面が大きかったかなという印象。
ただ、登場人物たちと劇中作の映画の主人公・重造のシンクロからくるラストシーンへの持っていき方は素晴らしいと感じた。
全部観終えると「光」というタイトルが色んな意味と重みを持って感じられるところも良い。
光は視力の要素であり、きらきらしたプリズムであり、時に道標であり、時に希望であり、そのすべてでも、どれでもないものでもある。
視覚障害の男性を演じる小市慢太郎さんの静かで穏やかな表情が印象的だった。セリフは少ないのにとても心地よい存在感。
それでも光は必ず見える
本当に残念でなりません。
この映画をコロナの影響の無い状況で観ていたら、
老いや喪失や叶わぬ願いの先に見えて来るポジティブな光、或いは、この世界は決して闇に包まれているわけではないという(根拠は不確かなのに)なぜか確かな希望を抱くことのできる素晴らしい映画として、もっと素直に感動していたはずです。
現実世界においてこれほど先の見通せない今、一体〝光〟はどこにあるのだろう、そのような思いの方が優ってしまいました。
DVで苦しんでいる家庭では、在宅時間が増えた暴力的な父親が子どもや妻を虐待していないだろうか。
イジメを受けている子どもは、一時的に先送りになっている登校が再開したら、コロナ絡みのあだ名やイジメで苦しむことを想像して精神を病んでいないだろうか。
自粛でたまっているフラストレーションがパワハラなどに表れないだろうか。
最近、テレビなどでも一部の有識者が食料のサプライチェーンの話に言及しています。自由貿易もいいけれど、食糧自給率40%を切っている日本はこの際、中国やアジアからの実習生が来なくて困っている農業や酪農にフリーランサーや非正規の方たちの力を活かす場がないか(人手不足の解消という短絡的な話ではなく、将来の日本の食の安全確保のためのアイデアが湧いて来るのではないか)とか、もっとたくさんの人(日頃、第一次産業に関わっていない人)が、たとえば世界が閉鎖的になって食材を輸出してくれなくなることを想定してその対策に考えを巡らすいい機会と捉えるのも無駄ではないと思います。
経済活動の停滞への対策は政府に任せるしかありませんが、身近な社会における〝コロナ後〟の世界にも想像力を働かせて、自分には何ができるか、そう考える人が増えることで、今より強くて柔軟性と多様性に富んだ逞しい社会に繋がればいいな、と思っています。
話があっちこっちへ飛ぶ支離滅裂なレビューになってしまいましたが、2020年3月30日の今日、いかに自分が混乱していたか、の証左として見直すことなく、このまま投稿します。
音声ガイドの映画
個性的。印象に残る。
主観VS想像力
テレビドラマの副音声で音声ガイドは聴いたことがあるが、単純に脚本のト書きを読めばいいものだと思ってたのに、単純なものじゃなく、大変なことがわかった。聴覚効果に関しても優れていたけれど、その点は『殯の森』(2007)にも通ずるものがあった。映像もいつもの河瀨作品とは違い、クローズアップにより頭の部分がフレームアウトしてる画が多かったように感じる。
劇中劇でも妻の認知症を看る藤竜也の姿、ストーリーでも水崎綾女演ずる美佐子の母親が認知症で徘徊するまでを描いていて、視力を無くしつつある視覚障がい者の感ずる“光”と認知症患者と介護する者の感ずる“光”を比較していた。このコントラストに同じ微かな希望をも感じ取ることができたが、同時に「消えつつあるものが美しい」と、悲哀に満ちた愛ともとらえることができた。
主観による説明では観客は誘導されるが、想像させることで映画の世界が広がっていく。難しい作品ほど観客の感性により受け取り方が違うのは健常者にとっても同じこと。このサイトのレビューを読んでるだけでも楽しいものだ。と、つくづく思う。
好きなシーンとしては、夕陽のシーンはもちろんのこと、美佐子が母親の横で添い寝して息をしてるかどうかを確かめるシーンが強烈だ。母親の消え去ってしまった美しいものは戻ってくるのだろうか。認知症が増え続ける世の中、患者の気持ちに立つことは難しいが、想像力で補えば愛情は必ず伝わることだろう。
水崎綾女がそのままナレーターするのかと思っていたら、樹木希林だったことに驚いた。自宅鑑賞しかもヘッドホンにてでしたが、やっぱり心地いいわ。
テーマもメッセージも映像も何もかも「光」
映画を観た後、じわじわと脳裏に映し出される夕陽の景色に、再び映画の中に引き込まれる。
河瀬直美監督はやはり苦手だ
河瀬直美監督はやっぱり苦手だ。
カンヌで喝采を浴びてるのを見るたびに傑作なのかなと思うけど、見るとあまり感情移入できない。
ヒロインがアイドルみたいできれいすぎる、ヒロインと永瀬正敏演じる元カメラマンのケミストリーについていけない、とか。とか。とか。
絵はとても綺麗。でもアップすぎる人物にちょっとお腹いっぱい。いまいちすっとはいってこないというか。
感情的なシーンも、もらい泣きすらしなかった。最近あんまり映画を観て泣かない。それは自分の問題なのか、観る映画がそんなに泣かせるものじゃないからなのか、わからない。最近あんまり泣いていない。
たとえば橋口亮輔作品を観たあとの感覚、
西川美和作品を観たあとの感覚、
と比べると、河瀬直美監督のものは、
なんだかいまいち、心のそこに触れる感じがない。なぜなのかわからないけど。
映像が美しい
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