KUBO クボ 二本の弦の秘密 : 映画評論・批評
2017年11月7日更新
2017年11月18日より新宿バルト9ほかにてロードショー
“日本”をモチーフにした外国産の映像で、最高に属する一本
トム・クルーズの「ラスト・サムライ」、キアヌ・リーヴスの「47RONIN」など海外の映画人が日本の時代劇を撮った例はいくつかあるが、作品のクオリティとは別のところで、外国産なのだから多少おかしくても目をつぶろうと思っていないだろうか。筆者はそう思ってきたし、アメリカ産のストップモーションアニメ「KUBO クボ 二本の弦の秘密」が封建時代の日本を舞台にしていると聞いて、当然ながら身構えていた。
ところが、そんな先入観を持っていてごめんなさいと、この映画の関係者全員に謝りたい。日本人の誰もが納得するほど描写やディテールがリアルだから、ではない。この映画で描かれている物語が、まるで幼い頃から親しんできた“おとぎ話”のようにしっくりとわれわれに馴染むからだ。
侍の息子“クボ”は、赤ん坊の時に邪悪な祖父によって左目を奪われ、母親に助け出されて身を隠して育つ。母親に譲られた不思議な三味線で折り紙を自在に操り、村人に物語を語って暮らしていたが、やがて右目を狙う叔母たちに襲われる。母親の力で難を逃れたクボは、喋るサルとクワガタに助けられ、祖父を倒す3つの武具を探す旅に出る。
冒険ファンタジー、というジャンルにカテゴライズすることも可能だが、やはりこれは“おとぎ話”と呼びたい。それもただ、悪を倒してめでたしめでたしではない、暗い面にも目を向けることを恐れないタイプのおとぎ話だ。
まずはコマ撮りのイメージを覆す流麗な動きに目をみはり、芳醇なイマジネーションがあふれるビジュアルに魅了され、懐かしくも新鮮な“日本”の景色に惹き込まれる。外国から届けられた“日本”をモチーフにした映像の中でも、本作が最高に属する一本であることは間違いない。
そしていつしか、“物語を語り継ぐ”という裏の、いや本来のテーマが浮かび上がってくる。“おとぎ話”とは本来、親から子へ、人から人へと語り継がれていくもの。そして日本の物語や文化が海を越えて、また別の物語となって帰って来たのが本作なのだ。怒りでも強さでもなく“物語”が勝利するラストまで、一瞬たりとも見逃してはもったいない、映像の時代が産み落としてくれた絵巻物である。
もうひとつ付け加えるなら声優陣が本当に素晴らしい。日本が舞台の時代劇で、シャーリーズ・セロンとマシュー・マコノヒーがルーニー・マーラとレイフ・ファインズと戦うだなんて、まさにアニメでしかありえない豪華すぎる顔ぶれであろう。
(村山章)