ハートビート : 映画評論・批評
2016年8月16日更新
2016年8月20日より新宿シネマカリテほかにてロードショー
後味爽快!音楽とダンスのプロたちが本気で作った最新ダンスムービー
パフォーミングアーツを語るならニューヨーク。例えば地下鉄のホームに下りると、無名のバイオリニストやタップダンサーたちが各々得意技を披露して、足早に通り過ぎようとするニューヨーカーたちから日々チップを稼いでいるし、もしかして、黒ずくめのストリートキッズ集団と工事人グループが突然、ヒップホップダンス・バトルを始めるかも知れない。そう、この映画のように。
マンハッタンの通りを徒党を組んで歩くチンピラたちが突如、すました顔をして群舞を踊り始める「ウエスト・サイド物語」(61)から半世紀超が過ぎても尚、ニューヨークには未だそんな"ありそうでなさそうな白日夢"を信じ込ませるマジックがある。夢を語ろうとする映画にこれ程好都合な街はない。しかし、監督以下スタッフはニューヨークから貰ったアドバンテージに甘んじてはいない。
まず、田舎からバレリーナを夢見てマンハッタン芸術大学に進学して来るヒロイン、ルビーと、ルームメイトのジャジー、その他、バレエクラスの学生たちを選ぶ際、綿密なオーディションを重ねてホンモノを厳選。結果、ダンサーたちはフェッテ(軸脚で立って片方の脚を軸に巻き付けながら回転する)やピケ(回転しながら大きく円を描く)等、基本動作を苦しそうな振りをしながら吹き替えなしで完璧に演じている。女優の個性重視でダンスシーンはプロに振っていた「フラッシュダンス」(83)は遠い昔の話である。
さらに、クラシックバレエとブレイクダンスの融合がテーマだった「フラッシュダンス」よりも俄然アップデートされている。劇中では、バイオリン×ヒップホップ@地下鉄の駅、リバーダンス×クラシックバレエ@アイリッシュパブ、バイオリンVSバイオリン×ヒップホップ@パトロン主催のセレブパーティ等々、手を変え品を変え様々な融合が展開する。そして、ラストに用意された、ルビーと恋人のイケメン・バイオリニスト、ジョニーがライバルたちと雌雄を決する「弦楽器とダンスコンクール」の勝負ステージでは、ジョニーが搔き鳴らすエスニック調メロディに乗せて、ルビーがヒップホップダンサーたちを従え、大胆なコンテンポラリー・バレエを炸裂させるのだ。
音楽とダンスのプロたちが本気で作った最新ダンスムービーには、コンペティションで終わる青春群像劇のルーティンの中に、肉体芸術の限りない可能性がびっしり詰まっていて、うざったい夏に喉ごし滑らか、後味爽快。ベタでもめちゃ楽しい夢から心地よく目覚めて劇場を後に出来るはず!
(清藤秀人)