劇場公開日 2017年1月13日

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ネオン・デーモン : 映画評論・批評

2016年12月27日更新

2017年1月13日よりTOHOシネマズ六本木ヒルズほかにてロードショー

ファニングの多面的な魅力が陶酔をもたらす、エキセントリックな寓話

キャリー」ミーツ「マルホランド・ドライブ」とでも形容しようか。催眠的な美しさとエキセントリックな魅力に満ちたホラーだ。ジャンル映画を愛し、映像美に徹底したこだわりを持つニコラス・ウィンディング・レフンが、ロサンゼルスのネオンと人工美に彩られたモデル業界を舞台にしたのは、必然と言えるかもしれない。外見の美しさが存在価値を決める世界では、成功を夢見る多くの少女たちが美を追い求めるが、彼女たちのオブセッションはいともたやすく狂気に繋がり得るからだ。レフンはそんなモデルたちのステレオタイプなイメージをあえて押し進め、悪夢的な寓話に仕立てた。前作「オンリーゴッド」や「ドライヴ」にも通じる、暗く艶やかなイルミネーションとまばゆいフラッシュの世界が、観る者の目を惑わせる。

モデルになることを夢みてロサンゼルスに来たヒロインがエージェントに見いだされ、あっという間に売れっ子になる。嫉妬が渦巻くなか、彼女の周りで奇妙な出来事が起こり始める。リアリティとかけ離れたレフンのスタイルは、現代の美の価値判断について真っ正直な批判を試みているわけでは毛頭ない。むしろ潔いほどエンターテインメントに徹し、過激な描写で観客を挑発する。だがそれでも、毒の効いたセリフに真理を見いだし、どきっとさせられたりもするから油断がならない。

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特筆すべきはヒロイン役のエル・ファニングだ。どぎつい映像に目を奪われ、つい俳優の貢献を見逃すところだが、彼女なしに本作は成り立たない、そう思えるほどにファニングの演技力は奥深い。陶器のような繊細な持ち味というだけではない、世間知らずの少女の純真な美しさを嫌みなく表現する一方で、ときに成熟した面を漂わせ、後半には、ヒロインの変化に合わせて残酷な表情を一瞬のぞかせたりもする。18歳でこれほどニュアンスに富んだ演技ができる女優がどれだけいるだろう。

ケネス・アンガーの映画を彷彿させるような、魔術的な雰囲気を立ち上らせるファニングのランウェイ・シーンは、とりわけ陶酔をもたらす。

佐藤久理子

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