劇場公開日 2017年5月20日

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皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ : 映画評論・批評

2017年5月9日更新

2017年5月20日よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほかにてロードショー

日本アニメに並々ならぬ愛情を持つ男のイタリアからの挑戦

皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ」。イタリアの映画である。そしてこのタイトルは厳密には邦題ではない。イタリア語のタイトル「LO CHIAMAVANO JEEG ROBOT」の直訳だが、映画が開幕すると「皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ」と日本語も堂々と映し出されるのだ。日本の配給会社がタイトルを差し替えたのではなく、オリジナルの状態で、である。

70年代のロボットアニメ「鋼鉄ジーグ」をこよなく愛するイタリア人監督が「鋼鉄ジーグ」にオマージュを捧げたヒーロー映画――という前情報をキャッチしている人は少なくないだろう。マイネッティ監督は子供の頃にイタリアで放送されていた日本のアニメに並々ならぬ愛情とこだわりを持っており、長編デビューとなる本作以前にも「ルパン三世」や「タイガーマスク」をモチーフにした短編を撮っている。わざわざ日本語のタイトルを映したのは彼なりのリスペクトの表明だろう。

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ただし、「皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ」は「鋼鉄ジーグ」を監督なりに翻案したものではない。日本の特撮怪獣映画とロボットアニメを敬愛するギレルモ・デル・トロが巨大ロボットと怪獣が戦う「パシフィック・リム」を撮ったのとはまったく別種の作品だと言える。「鋼鉄ジーグ」は劇中に置いてあくまでもシンボルとして扱われており、作品自体は「鋼鉄ジーグ」の実写化じゃないし、ストーリー的な関連もない。観客は「鋼鉄ジーグ」を一切知らなくともなんら不便を感じないはずだ。

マイネッティ監督が試みているのは、むしろハリウッドを席巻しているスーパーヒーロー映画に対するイタリアからの返答だ。主人公のエンツォが手に入れるスーパーパワーは不死身の身体と怪力だが、使用法として思いつくのはせいぜいATMの強奪程度。エロビデオと好物のヨーグルトしか楽しみがない孤独なチンピラだ。善行を成そうとするキッカケも、自分に輪をかけて悲惨な境遇にいるヒロインへのなけなしの同情。言うなれば本作は、「社会の底辺にいる男女が身を寄せ合う」という非常にミニマムでロマンチックな英雄譚なのである。

マーヴェルのような派手なヒーローでもDCの大義を背負ったヒーローでもない、市井に埋もれたヒーロー像。痛快でも爽快でもないが、確かにこの映画には「正しいものを信じたい」という希望の光があって、それをマイネッティがアニメの「鋼鉄ジーグ」に見出したのだとしたら、われわれ日本人も改めて「鋼鉄ジーグ」を再発見するべきではなかろうか。

村山章

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