「ただ心地よい」ハドソン川の奇跡 ハルさんの映画レビュー(感想・評価)
ただ心地よい
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今作の妙味は編集にあるだろう。
導入部はシンプルで静かに、そして不穏な雰囲気で始まりやがて核心の着水シーンを観ることになる。しかし観客の多くはその価値をまだ真に理解してはいない。
直後には世間から英雄視された機長たちだが冒頭で示されている通り彼らの判断には「疑惑」があった。調査委員会によっていくらかの事実が明らかになっていくがそれらは機長たちの語る証言とは異なるものばかりだ。
この辺りから時系列を行きつ戻りつさせており、時にはわかりづらいカットもあるがそうすることで注意を喚起させている。着水のシーンを違う立場、視点から繰り返し描くことでこの事件の全体像が徐々に明らかになっていく。
そうしてテンションを上げたところでクライマックスになる公聴会が緊張感を持って始まる。ここからはまたシンプルに進行しやがて大逆転、そしてシャレの効いた終結で締める。
こうして振り返ると楽曲のようである。イーストウッド一流の編曲とでも言うべきか。そうした味わいがベースにありつつ、機長たちの極めて優れた判断の素晴らしさをことさらに持ち上げない抑えた演出が効いているし、また何と言ってもこの奇跡に寄与した多くの善意、良心が染み入ってくるのだ。
この事件を描くのにこれ以上の回答があるだろうか。
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