劇場公開日 2017年2月18日

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雨の日は会えない、晴れた日は君を想う : 映画評論・批評

2017年2月7日更新

2017年2月18日より新宿シネマカリテほかにてロードショー

ごく普通の中年が狂気へと飛び込んでいく、エモーションのアクション映画

原題は「Demolition」。ついスタローン主演のアクション映画「デモリション・マン」が浮かんでしまい、ふんわり系の邦題との落差に驚く。日本語では「破壊・解体」の意味で、確かに作品の内容を端的に言い表している。

ジェイク・ギレンホール扮する主人公デイヴィスは、突然の交通事故で妻を亡くした金融マン。一見エリートコースに見えるが職場のボスは妻の父親。つまりはコネ入社であり、特に大きな夢もなくほどほどに世間を立ちまわって生きてきた男だ。

そんな平凡人デイヴィスを戸惑わせたのは、妻が死んだのに悲しくもなんともないこと。ショック状態のせいかそもそも愛情が消え失せていたのか本人にもわからない。わからないものは一度バラバラにしてみればわかるかも知れないと、デイヴィスは取り憑かれたようになんでもかんでもバラバラにし始める。亡き妻との思い出の品も二人で暮らしたマイホームも文字通り「破壊・解体」していくのだ。

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昨年に西川美和監督の「永い言い訳」があった以上、どうしても比較は避けられない。どちらも「妻の死に悲しみを感じない男」の物語だからだ。ただの偶然の一致で、どちらが上でも下でもないが、「永い言い訳」がヒネくれた変わり者が人間性を獲得していくヒューマンドラマなら、こちらはごく普通の中年が狂気へと飛び込んでいくエモーションのアクション映画だ。こじれた感情を解きほぐそうとする内面の葛藤を「物理的にブッ壊す」という動的なビジュアルに昇華させたアイデアに舌を巻く。

ナイトクローラー」でサイコパスを怪演したギレンホールが、本作では感情の在り処を求めて半ばサイコパス化していく難役を絶妙に演じていて、本当に何をしでかすかわからない。それでいて、主人公の暴走がどこか可笑しく、この感情移入しづらいイカレた男が愛おしくすら思えてくる。

監督は「ダラス・バイヤーズクラブ」のジャン=マルク・ヴァレ。撮影の美しさと音楽センスが相変わらず素晴らしく、この奇妙でねじくれた物語を優しさで包み込む。デイヴィスと知り合うシングルマザー役のナオミ・ワッツのリアルな佇まいも、クセのあるその息子を演じたジュダ・ルイスも、特に何も獲っていないようだが演技賞に価する名演技。なによりも、誰かの立派な行ないに感心するより、人間が愚かしくも右往左往する姿を見るのがたまらない筆者のような人間には最高のご馳走みたいな映画である。

村山章

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