ニュースの真相 : 映画評論・批評
2016年8月2日更新
2016年8月5日よりTOHOシネマズシャンテほかにてロードショー
報道番組プロデューサーの「しくじり」と壮絶な苦境。戦友との絆が一筋の光を宿す
サクセス・ストーリーはアメリカ映画の得意ジャンルだが、実話の失敗談も意外に得意だ。代表的なのは、「遠すぎた橋」、「ブラックホーク・ダウン」、「ローン・サバイバー」など戦闘のしくじり作戦をネタにした作品。そこに今回、テレビ報道の世界を背景にしたこの映画が加わった。しくじり先生は、報道番組「60ミニッツⅡ」の敏腕プロデューサー、メアリー・メイプス(ケイト・ブランシェット)。そして、彼女の巻き添えを食う形で局の看板ニュース番組からの降板を余儀なくされた花形キャスターのダン・ラザー(ロバート・レッドフォード)だ。
時は2004年の大統領選の最中。メアリーのチームは再選を目指すブッシュ大統領の軍歴詐称疑惑をスクープするが、放送直後に証拠文書の真偽を疑われ、今度は自分たちに向けられた疑惑の払拭に奔走するハメになる。果たして文書は偽物だったのか? 謎解きの妙味をはらみながら検証作業を追うドラマは、徐々にメアリーのしくじりの原因を浮かび上がらせていく。その根っこが、ブッシュの犯した史上最大のしくじりとシンクロするところが面白い。
証拠文書の裏付けを取る過程で、メアリーは「自分の信じたいことを事実とみなす」という独善の罠にはまる。イラクに大量破壊兵器疑惑をかけて戦争に突っ込んだブッシュと同様に。そして、しくじりの責任を問われることなく大統領の座に居座り続けたブッシュと違い、メアリーは四方八方から壮絶なバッシングを受ける。キャリアの絶頂からどん底に突き落とされたうえ、針のむしろに正座させられる感じだ。そんな極限状況に置かれた人間が、恐怖と焦りにさいなまれながら自分を保とうと踏ん張る姿を、この映画はゴリアテに闘いを挑んで敗れたダビデのあるべき姿として描いている。
ケイト・ブランシェットの演技はいつもどおり巧みすぎるほど巧み。引き込む力が強く、メアリーの苦境を疑似体験させられるようだ。その痛みを和らげてくれるのがダンの存在。権力の監視がメディアの仕事と心得るメアリーとダンの戦友の絆に、一筋の光を宿したエンディングに救いを感じた。
(矢崎由紀子)