劇場公開日 2016年8月26日

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「盛り沢山のファンタジー」君の名は。 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0盛り沢山のファンタジー

2016年10月1日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

よくできたアニメである。
主人公は三葉と瀧の二人。三葉は家族や家柄などが詳しく描かれているが、瀧は個人情報が少ないように思える。それでも、父親との会話などからいくつかわかる部分がある。
朝食を父と息子の当番制にしているということは、母親が不在だ。母親の単身赴任は考えづらいから、おそらく亡くなったのだろう。そのことと、バイト先の先輩に特別な感情を持つことから、瀧は母性に魅かれる面があると考えられる。朝食を息子と当番制にする父親は、息子の人格を尊重して対等に接している。だから瀧は父子家庭でもいじけることなく、状況を受け入れるキャパシティがある。人格交代のアクシデントを受け入れることができたのもそのキャパシティのおかげだ。
対して三葉は、幼いころに母を亡くし、父も家を出て行って、祖母と妹の3人暮らしである。家業の神社を守る仕事があり、芯の強さがある。母性を求める瀧との相性がいいのはそのためだ。
両方とも父子家庭だが、人間関係が複雑で問題を抱える三葉に対して、瀧の方の人間関係を単純にすることでバランスを保っている。

さて作品についてだが、原作の漫画を読んでいないので、先入観といえばタイトルと予告編だけ。戦後の「君の名は」というラジオドラマと映画が有名で、数寄屋橋ですれ違う有名なシーンのイメージがあった。この映画でも最後の方で歩道橋ですれ違うシーンがあり、数寄屋橋インスパイアかと思ってしまった。たぶん違うだろうが。
予告編では男の子と女の子の心が入れ替わるということしかわからなかったので、大林宣彦の映画「転校生」みたいなものかと思っていた。しかしほのぼのとした日常を描いた映画ではなく、驚きのストーリーだった。
入れ替わるのは見知らぬ男女で、離れた場所にいて入れ替わる。そして超えるのは空間だけではない。ややこしい人間関係はないが、その代わりに〝忘れたころにやってくる〟大きな事態が起きる。その展開に翻弄されつつも、主人公たちは互いのためにいま何をなすべきかを考え、そして実行する。
盛り沢山のファンタジーを107分の映画に詰め込んでいて、すべてのシーンに意味があり、一瞬も見逃せない。高評価は当然だ。

三葉の声を演じた上白石萌音は「舞妓はレディ」の演技も高く評価していたが、声優としてもなかなかのポテンシャルを持っている。歌もうまい。雰囲気が昭和なので、そのうちNHKの連続テレビ小説のヒロインにでも抜擢されそうだ。

耶馬英彦