「"ムスビ"まとめるもの」君の名は。 神社エールさんの映画レビュー(感想・評価)
"ムスビ"まとめるもの
新海誠作品は『彼女と彼女の猫』以外観賞済。
新海監督特有の『秒速5センチメートル』や『言の葉の庭』、『ほしのこえ』など男女のすれ違う切なさが、音楽と共に多重奏の様に響きあっていくのが好きなのと、映画解説者の中井圭さんの『アニメと敬遠している人も是非見に行って欲しい』と言っていたので公開週に観賞。
今までは新海監督の作品を面白い面白いと思って見てはいたものの、万人にオススメ出来る非の無い作品では無く、一人でこっそり見る私小説の様な印象を持っていた。
この作品までは。
今までの新海監督の作品は終始スローペースのバラードの様なテンポだと思ってたんだけれど、今回は序盤からいきなりRADWIMPSの楽曲と共にポップで小気味良いテンポに変わり、今までの新海監督作品では味わえなかった『笑い』や『疾走感』がとても心地良く、それでいて新海監督らしさは失っておらず、こんなに新海監督の作品がエンタメらしさを出せるのがとても嬉しく、そのアップデートを目撃出来ていることに興奮した。
中盤や終盤は今までの新海監督作品らしさが強くなったものの、それでもエンタメ感とのバランスの取り方は素晴らしく、終始感動しっぱなしだった。
また、作中で語られる"ムスビ"や"ほどけて捻れて絡まって一本の糸になる"って言う比喩は人と人との繋がりや、生きとし生けるものを糧に生きている繋がり、昔と今の繋がりや、瀧と三葉の繋がりでもあり、序盤の伏線が糸のように絡まり纏まって最後に収束していくこの作品の展開や、今までの作品が結び絡まって繋がり、出来たこの作品でもあると思う。
そして、"記憶が無くなっても感情が残る"と言う言葉は、東日本大震災から5年経過して風化しつつある記憶が消えても犠牲になった人々を失った哀しみ、あの時救いたかった感情はいつまでも残ると共に、救いたかったあの瞬間に救ってくれたって言う展開が、まるで犠牲者への鎮魂歌の様に紡ぎあげていて後半は涙無くしては見られなかった。
ただ、新海誠症候群なのかハッピーエンドの作品を見るのが少なかったからなのか、あの終わり方は(もちろん作品のテーマを理解しているならその終わり方以外に無いのは解ってるにも関わらず)、物足りなく感じてしまった自分が憎い…。