美女と野獣 : 映画評論・批評
2017年4月11日更新
2017年4月21日よりTOHOシネマズ日劇ほかにてロードショー
あの名曲・名シーンがより壮大に美しく、繊細に。ファンの願いに応えた実写版
本当は怖いおとぎ話の数々を夢溢れるアニメーションとして生まれ変わらせ、子供はもちろん大人の心も捉えてきたディズニー。アニメーションでお馴染みの世界を「マレフィセント」や「アリス・イン・ワンダーランド」など切り口やテイストを変えた実写化も進めてきたが、ある意味本作こそ、ディズニー・ファンが待ち望んでいた実写版と言えるだろう。
なにしろ、オスカーに輝いた主題歌をはじめ、オリジナル版で使用されたすべての楽曲が本作にも使われているのだ。ベルと野獣のダンスシーンはドレスの色はもちろんのこと、流麗なカメラワークもそのままに、実写ならではのきらびやかさでより壮麗に表現。城の住人たちがベルを迎えて大騒ぎする「ひとりぼっちの晩餐会」は技術の進化とあいまって、さらに躍動感に溢れ、まさに一大スペクタクル!
そう、アニメーションとして初めてアカデミー作品賞にノミネートされたオリジナル版の世界観に新たな解釈など加えたりしなかったリスペクトが、この作品の勝因。真実の美は内面に宿るという作品本来のテーマも、知的で自立心に溢れるベルというヒロインの現代性ももちろん魅力的だが、あの名曲が聴きたい、あの名シーンが観たいというファンの願いに応えてこその「美女と野獣」なのだ。
ベル役がハマるエマ・ワトソンをはじめ、脇を固める芸達者な名優たちもまた 歌や会話のやり取りを楽しませるなか、ポット夫人役のエマ・トンプソンが歌う主題歌「美女と野獣」は優しく響いて格別。それでいて、ただアニメーションの世界をなぞるのではなく、新たに加えられた3曲によってキャラクターの心情に深みを与えることに。ベルと野獣の間に生まれる恋のときめきがより繊細に伝わるのも、扇動された群集の怖さがより増すのも、生身の人間が演じるからこそ。
そして、アニメーションによって観客の胸に育まれてきたビジュアルが、リアルにそこに存在するという興奮! ディズニーの戦略もうかがえるとはいえ、映画の世界そのままの場所へ行けるという東京ディズニーランドの「美女と野獣エリア(仮称)」の開場が待ち遠しくなる。スタジオにとっても1本で2度美味しい作品になるはずだが、観客にとってはそれ以上に楽しみが膨らむはず。
(杉谷伸子)