劇場公開日 2016年2月12日

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スティーブ・ジョブズ : 映画評論・批評

2016年2月2日更新

2016年2月12日よりTOHOシネマズ日劇ほかにてロードショー

未来を創造した天才の挑戦と葛藤を、三幕劇に凝縮して提示するアーロン・ソーキン脚本の粋

パーソナルコンピュータやスマートフォンを世に送り出し、人々の仕事と生活を大きく変えたイノベーター。強烈なカリスマ性、デザインと品質へのこだわり、聴衆を魅了するプレゼンテーションでも知られる天才。映画「スティーブ・ジョブズ」は、2011年に惜しまれつつ他界したアップル創業者の実像に、1984年のMacintosh、88年のNeXT Cube、98年のiMacという3回の製品発表会の舞台裏を描くことで迫ろうとする。

マイケル・ファスベンダー扮するジョブズは、発表前の控え室や通路、舞台を忙しく移動しながら、問題を本番前に解決しろと部下を脅し、同僚や元恋人と言い争い、側近のジョアンナ(ケイト・ウィンスレット)に不満をぶちまける。緊迫した対話がいくつも連なり、やがて伝説的なプレゼンを迎えるまでを、「スラムドッグ$ミリオネア」のオスカー監督ダニー・ボイルが実録風カメラワークに若干の映像的ギミックを添えて描き出す。

ウォルター・アイザックソンの原作は、ジョブズ本人ほか多くの関係者に取材した唯一の公式伝記だ。「ソーシャル・ネットワーク」でアカデミー賞脚色賞を受賞したアーロン・ソーキンは、ジョブズの生涯を網羅した伝記本のダイジェストを作るのではではなく、転機となった3度の発表会を抽出。そこに独自取材の情報も盛り込んだ会話劇を創作して、設定・対立・解決という三幕構成の定型に落とし込んだ。

ソーキンの脚本は、起業家・経営者として成功と挫折、復活を駆け抜けたキャリアの激動期を語るのと同時に、元恋人クリスアンとの口論、その間に生まれた娘リサとの距離感を通じて、ジョブズが抱える矛盾や出自にまつわる葛藤にも切り込む。製品に美と洗練を追求する完璧主義者が、人として親としてみっともないほど未熟で不完全であり、成長を必要とした点を強調することで、普遍的なテーマへと導く。

膨大な台詞でジョブズの生き様を凝縮する一方、思い切った省略も本作を際立たせるスタンスだ。革新的な製品が誕生する過程もなければ、有名なプレゼンの本番もない。物足りなく思うアップルやジョブズのファンも多いだろう。それでも、主題を語る上で不要な要素をそぎ落とす姿勢からは、ジョブズが傾倒したミニマリズムや禅に通じる、ソーキン流の粋(いき)を極める心意気が伝わってくる。

高森郁哉

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