葛城事件のレビュー・感想・評価
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ありふれた事件
ある凶悪事件を起こして死刑を宣告された青年。
世間から非難され続けるその青年の父親。
事件はどのような流れで起きたのか、そして
事件後の加害者家族がどのような顛末を辿るのかを、
過去と現在を前後しながら描くドラマ作。
厭(いや)な後味が残る映画だけれど、
同時に非常に見応えのある秀作だった。
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主役の葛城家を演じるメンツが、揃いも揃って見事な演技。
常に場を支配する三浦友和の威圧感も流石だが、
魂が抜けかけたような南果歩の演技もものすごい。
家族をどうにか繋ぎ止めている新井浩文の苦渋の表情、
俯いた顔の内側で憎しみをたぎらせる若葉竜也もグッド。
序盤、長男の妻が自宅を訪れるシーンでの、歯車がことごとく
食い違った時計のように軋みを上げる家族の風景が恐ろしい。
なんて重苦しく陰鬱なアンサンブル。
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恐ろしい事件が起こった時、世間は事件を起こした人間や
その家族を別種の生物と考えて心の整理を付けようとする。
ドラッグをやっていただの、特異な性的嗜好の
持ち主だの、ネット上での過激な言動だの、
『世の中には怖い人間がいるなあ(自分は関係無いけど)』
と安心しようとする。
この映画の恐ろしい所は、
自分とはかけ離れて思えたそんな人間達が、実は
別種でも何でも無かったかもしれないと思わせる点だ。
ごくありふれた人間、ありふれた事件に思えてくる点だ。
僕も冒頭こそ「あんな父親なら息子もどうかしちゃうよね」
などとあぐらをかいて観ていたけど、実はあの父親も
世間からの非難が元で、事件前より卑屈で横柄な
態度を取るようになっていることが見えてくる。
事件前の彼も傲慢ではあれ……そう珍しい人間ではない。
短気で自分の意見を押し付けがちな所はうちの親父や
他の知り合いにも少し似た所があると感じたくらいだ。
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あの次男も元々そんな異常な人間ではなかったと思う。
彼は父親に愛されている実感が無かったどころか、
父親の常日頃の叱責に劣等感ばかりが募り、自分は
誰より無価値な人間だと感じてたんだろう。一方で、自分を
そんな思考の持ち主に追い込んだ父を憎悪していたんだろう。
あの凶行はもはや『父を見返したい』とかではない。
自分の全てを否定する“敵”を、逆に徹底的に否定してやる、
お前が全部間違ってたと思い知らせてやるという憎しみだけ。
彼はもう父を単なる外敵、平穏になるはずだった
家族を乱す異物としてしか見ていなかったんだと思う。
少しだけ表情の緩んで見えた束の間の団欒や、最後に
兄に似たスーツ姿の男性を見て動きを止める場面が、
今思い出しても哀しくてやりきれない。
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あの父親は、自分の期待に応えられない次男と
出来の良い長男とを比較して厳しく当たっていた。
だが、「俺は精一杯やったんだ」という彼の言葉に嘘は
無いのだろう。少しだけ流れる幸せな時代の風景を見ても、
彼は彼なりに次男へ愛情を注いでいるつもりだったのだろう。
けどね、思うに、
厳しいばかりでは『自分を守ってくれない、受け入れて
くれない』と不信感や憎しみだけを抱かれるのが関の山。
子どもの失敗や苦境をただただ叱咤するのではなく、
おおらかに受け止めるような姿勢も見せなきゃ。
自分の場合ではあるが、僕が自分の父を“父だ”と
感じたきっかけは、弟の大きな挫折を「自分もそれくらい
のことはあった」と笑いながら受け入れてくれた時だった。
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ラストは少し可笑しく、けどやっぱり哀しい。
孤独に苛まれて終盤次々と不様な行動を晒す父親。
どんなことが起きても人生は延々と、ただ延々と続く。
僕らもあの父親・あの家族と同様、
どこで間違ったかさえ分からない内に、どうしようも
ない人生に陥ってしまうかもしれないのだろうか。
物語の進行役とはいえ設定が浮きすぎて思える
田中麗奈の役は不満だし、やはりこの重苦しさゆえ
「面白かった! 最高だ!」と手放しには喜べないのだ
けど、
それでも観て良かったと思えた映画。4.0判定で。
<2016.07.22鑑賞>
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余談:
文脈に沿えなかったのでここで一言。
父親の経営する雑貨屋のレジに立った長男の見た、狭い風景。
あの父親は毎日あの風景を目にして過ごしていたんだろう。
店は継ぐなという父親の言葉からも、あの父親は
自分の子ども達は自分より立派になってほしいと
願ってたんだと思う。
あの時の長男の微かな笑みが、どうにも切ない。
家族を守ろうとして壊してしまった父
どうしてここまで来ちゃったんだろう
どうしたら良かったのかは答えは出てる。
でも、その原因を改善したところで防げたのかは正直分からない。
悲劇の始まりは、この父。
映画を観ながら、フライヤーの「俺が一体、何をした。」の文言が頭をよぎり、ふざけんなと思う。
でも、こういうお父さんって案外多い気がしてならない。
口調だったり、とある発言は、誰でも当てはまりそうなことばかり。
家族、取り巻く環境がいかに大事かを感じさせられる映画。
役者がとにかく凄かった。かなり凄かった。
南果歩演じるお母さんは特に凄かった。
南果歩を舐めていたと思うほど度肝を抜かれた。
誰にも共感は出来ないけど、そうなってしまった理由や背景は理解できる。
ただ獄中結婚した死刑反対派の田中麗奈演じる星野順子には全く共感が出来なかった。
--以下ネタバレ--
ラストのシーン。
息子の成長を願って植えたみかんの樹。
父は死のうとしたものの枝が折れ、死に損なう。
そしてリビングに戻りコンビニの蕎麦をまたすする。
死ぬ覚悟すらない腰抜けにも見えれば、
皮肉にも息子に助けられた父にも見えた。
我が家の玄関は、金木犀でした。
葛城父が私の父親と同じタイプの人間で、映画を観ている間ずっと傷口をほじくり返される苦痛に見舞われた。
怒鳴るスイッチが何処にあるか分からず、四六時中怯えて過ごしていた。
常に理不尽に怒鳴りつけ、自分の理想の家族像を押し付ける父親。
マイホームを建てて、玄関に金木犀を植えていた。
私が物心付いた頃には既に母はアル中。
母は、末期癌で死んでいった。
今でも悔やむ事は、母を自由にしてあげたかった。
母は、なんで、あんな屑野郎と結婚したんだろうと…。母に聞こうとしたって無理な訳だが…。
幼少期の記憶に蓋をしていたのに、蓋がずれてきて涙が止まらなかった。
ああいう人間が一家の主だと、自然と家族は壊れていくものだ。葛城家に限らず…。
とにかく重い作品、というのを覚悟して観に行ったのですが、予想以上に...
とにかく重い作品、というのを覚悟して観に行ったのですが、予想以上に辛かったです。
ただ観ていて驚いたのが、アパートで起こったある一件の前と後で、自分の中でも感情の動きがあったことです。それは、父親という存在は元来、孤独なのだなと気づかされたことです。
劇中では、稔も保もアパートで母親 伸子と共に居た時のみ、少しですが安らかな表情を見せていました。
保の家庭でも、子ども2人はいつも母親につきっきりでした。
よく、父親の背中を見て育つ、と言いますが葛城家においても、保も稔も父親の性格から言動まで受け継いでいるものの、心底では母親と繋がっていたのかもしれません。しかも、伸子は清のことを昔から嫌っていたというのだから、なおさらです。
アパートのシーンでは、その父親の孤独というのが垣間見えたようにも思えたのです。
とはいうものの、父 清はもちろん、母 伸子、そして2人の兄弟の言動には同情しづらいものがあります。
以前ラジオでちらっと聴きましたが、性格というのは遺伝よりも、生育中の環境の影響の方がよっぽど大きいそうです。
家族には愛が大事とかそんなこと言うつもりないですが、一つの家という箱の中で、みんなが笑っていられるような思いやりが、この家庭には無かったのだと思います。
観ている途中で何度も自分の家のことを思い返してしまい、帰ったら両親に孝行しようか、なんて思ってしまいました。
家族の在り方、人と人との在り方を、思いっきり反面教師として描くことで、考え気づかせてくれた今作に、とても好きにはなれませんが、称賛の意を表したいと思います。
映画とは関係ないのですが……
とにかくずっしりと重い
上映館がどんどん少なくなる中、やっと観てきました。
とにかく重い内容にすっかり気が滅入りました…でも観て良かった。
この作品はとにかく登場人物にまともな人がいないのが印象的。
屈折した愛情?で家族を地獄に引きずり込む父親(三浦友和)が、とにかく人間のクズにしか見えなかった。
息子達が小さい頃は辛うじて繋がっていた家族の絆が、ある時プッツリ切れて、それぞれが皆んなおかしくなっていく。
息子達が成長した頃には、まともそうに見える長男までも、とにかく狂ってる。。。
その長男(新井浩文)が飛び降り自殺してしまい、葬式の時に母親(南果歩)が「カナブンの話」でケラケラ笑っている時なんて、身震いするほど怖かった。。。
1番理解できなかったのは、通り魔殺人を犯した獄中の次男(若葉竜也)と獄中結婚した女(田中麗奈)。
彼女もとにかくおかしいと思う。
何を考えているのか全く理解できませんでした。
人って環境でこんなに壊れてしまうんでしょうか?
凶悪殺人犯って、やっぱり環境が生み出してしまうんでしょうか?
そんな事を思わずにはいられないくらい……重い作品。
三浦友和さん、クズっぷりが素晴らしかった。
か弱きものに押しつぶされた者たち
清から逃れた妻である伸子が稔(彼が父である清の性格を受け継いでいる)とアパートでインスタント麺を食べるのがこの映画で唯一、ホッとするシーンだ。
それで「父性」こそが、“この元凶の中心”である事は分かる。何故ならその後に清がやってきて元に戻るのだから。
それではその父性は強いものなのか?
それが最後に願掛けで植えた蜜柑の木が首吊りで折れたときに分かる。“実は対して強いモノではなかった”と。
彼らを縛っていたモノはか弱く、取るに足りない存在だったことに気がつくとき“この元凶”が特殊なケースではなく、実は誰にでも起こりえることに観ている者には気がつく。この映画の奥深さはここにあるといってもよい。
ときおりある“空間の狭さ”が葛城家の“狭さ”でもあり、それは我々の狭さかもしれないのだ。
個人的には、主演の三浦友和は甘いマスクも相まって器用貧乏な俳優と思われがちだが、実はこんな「激しい」役が一番の得意なのだと再確認した映画でもあった。
ことごとくすれ違う、善意と愛。
重い
重いことのメリットはない
よかった
三浦友和の一挙手一投足が全て居たたまれない気分にさせる。あんな性格でよくそこまで家族が持ったものだとむしろ不思議になるし、結婚すら普通無理なのではないだろうか。実際は寂しがり屋で優しい側面もあるだろうし、そういったところも少し描いて欲しかった。
実際にあんなお父さんはいるだけでパワハラだし、児童虐待だ。でも、今時珍しい頑固オヤジでもあり、居たたまれない気分が心地いいような安心感が逆にあるような変な気分もある。洗脳なのかもしれない。
田中麗奈にキスをせがむ場面は見ていてつらかったが、死刑囚と結婚するような変な女ならもしかしたらと思わなくもないので、三浦友和を一方的に否定できない。
普通の家族の異常な家庭
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新井さんの舞台挨拶に行きました。一家の家族の物語、破滅に向かっていくんだけど、誰が悪いのか分からない、正義と悪が混沌としている感じがした。たまたまひとりひとりの悪い所がぶつかってこうなったのかなって思った。新井さん演じる保はサラリーマンだったけどある時に職を失い、転落していく人生。最終的に自殺をしたんだけど、面白い話を新井さんに聞いた。【①保の子供を演じる子役は保に似たような子を抜擢した②子役に上手く演技させることが出来ず監督が子供にち○こを触らせてた(笑)③新井さんは自殺の時日本刀で首を切るというシーンを入れたかった④煙草を踏み消すシーンは2パターン撮って、ひとつは映画のカスを拾いに戻るもの、そして拾わないで立ち去るという設定も考えられていた(ちなみに新井さんだったら消した煙草をそのままポッケに突っ込むな、と言っていた)】人によって違う解釈をしてもらって構わないとの事です。重い内容ではあったがその他の要素も多く非常に楽しめる映画だと思う。演技を演技と思わせない彼らの演技力に圧倒されました。
疲労感に襲われる
最後のシーンが圧巻
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