「壮絶、だけど普通の家庭の話」葛城事件 hhelibeさんの映画レビュー(感想・評価)
壮絶、だけど普通の家庭の話
HPを見ると、「壮絶な、ある家族の物語」と書いてある。
確かに壮絶だ。
なにしろ2人の息子の長男は自殺、そして次男は無差別殺人事件の犯人だ。
だけどこの家庭、それほど特殊なんだろうか。
正直私は、何度も何度も「あるある!」と思った。
高圧的で自分を過信し、意見されることを嫌い、「これだから日本人は〜」みたいなことをすぐ言うオヤジ。
子供を溺愛し、家族の問題から目をそらし、「自分さえ我慢すればいいんだ」とヒロイックに耐える妻。
父親に気に入られようと「いい子」であることに必死で、身なりを気にし、一度しくじるとリカバリーが効かない男。
そして、きっと、多くの人が「あー、親戚の◯◯君っぽい」「近所の◯◯さん家の息子もこんな感じ」と近くの誰かを思い浮かべるであろう、大人になっても自分の人生を全く始められていない男。
「三浦友和演じる父親は最低の人間で、彼のせいで息子はあんな事件に至った」と思う人もいるだろう。それはある程度正しいと思う。
でも、あんなオヤジどこにでもいる。
最低だけど、普通だ。
リストラされた人も、バイトが続かない人も、引きこもりも、今の日本で全く特殊じゃない。普通だ。
今、この日本で、絵に描いたような幸せな家庭がどれだけあるだろう。
外から見れば幸せでも、世間体を気にして問題を隠していたりする。
「日本の家族あるある」だろう。
この映画は、壮絶だけど、普通の家族の話だ。
だから怖い。
本当にちょっとした歯車の狂いで、どの家庭にも、こんな事件は起こり得る。
特殊な事件の話ではなく、誰にとっても他人事ではない家族の話として、恐ろしくも興味深い映画だった。
家族がバラバラにコンビニ弁当を食べる画って、傍から見るとこんなにグロテスクなんだなぁ…。