「『お薬の時間ですよ』と看護士が呼ぶ」ブルーに生まれついて いぱねまさんの映画レビュー(感想・評価)
『お薬の時間ですよ』と看護士が呼ぶ
勿論、入院中の病室内のありふれた光景だ。しかしこれがホテルで、バーで、ライブハウスの楽屋でこのフレーズが脳内に響くシーンは又意味合いが変わってくる。
2016年暮れの映画で二つのジャズ映画が上映され、その一つが今作品。菊池成孔ファンである理由でしか、この人の事は知らない。ジャズのなんたるかさえも分からない身とすれば、菊池氏のこの人への愛すべきダメ人間の評価を聴くにつけ、その破天荒ぶりな人物像に興味が頭をもたげる。多分、今だといわゆるギャングスタラップの人達の人生みたいに思ったのだが、いやいや方向が違うらしい。その飽くなき『愛情』への飢え、そして認められたい『承認欲求』、名誉へのしがみつきが、稀代のジャズ界の『悪魔』を自ら作り続け、破滅へと疾走したのだろう。トランペッターにとって大事な前歯を喧嘩で折られたこと、あの悪魔の仔ダミアン宜しく、中性的なクルーナーの歌声。『マイファニーバレンタイン』は確かに聴く人に魔界への誘いを思い起こさせる。
そして、この作品、主軸はフィクションであるということも又、この人の悪魔たらしめてる雰囲気が醸し出すプロットなのだろう。
全体的にまるで薬の中での出来事、いるはずもない愛する女性、復活を賭けて薬を断ち切り、見栄を振り切り努力する姿、しかし、薬の対処薬に又、麻薬メタドンを処方しなければならない50年代のアメリカ、そして正にその夢が現実になる寸前に押しつぶされる弱い心、そして逆戻り・・・友を裏切り、愛する女性への婚約指輪代わりのバブルリングを返される仕打ち、 これが全て夢の中だとしたら、これこそチェズニーの真の伝記そのものかもしれない。
自分は麻薬は怖くて手は付けないが、この人間の脆弱さに大変共感を持てる。この悪魔的魅力は確かに希有だ。
その理由が故に、この悪魔のエピゴーネンがドンドンと世界中から量産されることとなる・・・