クリード チャンプを継ぐ男 : 映画評論・批評
2015年12月15日更新
2015年12月23日より新宿ピカデリー、丸の内ピカデリーほかにてロードショー
運命という強敵に向かうアポロJr.と老ロッキー 世代を超えた熱いファイター讃歌
アポロの遺児がロッキーから特訓を受け、世界チャンプを目指す--。ひとつ間違えれば一笑に付されかねないアイディアに「いや、傑作になる」という確信を持たせたのは、中年ロッキーのリング復帰劇を画で納得させた「ロッキー・ザ・ファイナル」(06)の成功と、シルヴェスター・スタローン自身が“ロッキー伝説”を体現する役者だからだろう。
1976年の「ロッキー」によってトップ俳優の座に登り、80年代にはアクションスターとして頂点を極めたスタローン。その筋肉ヒーローぶりは強国アメリカのアイコンとなり、そして時代の趨勢と共に勢いを失っていった。しかし2000年代にはロッキーほかランボーといった当たり役に再び取り組み、また往年のアクション俳優たちの梁山泊「エクスペンダブルズ」シリーズなどマーケットを絞った作品を展開させることで、再び役者としての活路を見出している。
打たれて倒れても、前のめりに立ち上がる。この不屈の姿こそ、まさしくロッキーそのものなのだ。
「クリード チャンプを継ぐ男」は、偉大な父の呪縛にあらがうアポロの実子アドニスと、老いがもたらす試練に立ち向かうロッキーの、二つの人生模様を併走させる。そしてロッキー自らがトレーナーとなり、アドニスを世界ヘビー級王座の道へと歩ませるドラマは、必然的に第1作目の「ロッキー」の韻を踏んでいくのだ。この構成は、アポロJr.と同世代の観客にロッキー伝説の何たるかを啓蒙し、スタローン世代には、名作を反復することで涙腺の決壊を促していく。
だが、それぞれ世代差はあっても「強い者が勝つ」という勝負の世界が普遍的であるように、観る者を奮い立たせる「アメリカンドリームの物語」もまた普遍的なのだ。
同時に本作は、ロッキーの「贖罪」の物語でもある。「ロッキー4 炎の友情」(86)で、アポロのエキシビションマッチにセコンドとして立ち会いながら、タオル投下を拒まれ、かけがえのない友を死なせてしまったロッキー。彼はアポロの息子を一人前のボクサーに鍛えあげることで、自分を苛み続けてきた罪をあがなおうとする。米ソ対立の代理戦争のようなストーリーから、悪く受け取られがちな「ロッキー4」。だが、それを正史として踏まえ、今回のような血も沸騰する熱いドラマが生まれるとは、まさに清濁併せ呑んでこその同シリーズと言えるだろう。
かなりスタローン寄りのレビューになったが、「シニアコンテンツかよ」などと嘲ることなかれ。運命という強敵に向かうアポロJr.と老ロッキーの生きざまは、世代を超えたファイター讃歌として観る者のボディにズンと響く。
耐えて耐えて耐え抜いて、心で受けろ、その熱いパンチを!!
(尾﨑一男)