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2015年の全米を騒がせたホラーが「イット・フォローズ」で、2014年の全米を騒がせたホラーがこれ。
なるほど。怖い。
「イット・フォローズ」が生と性と死、そして愛と喜びの映画であるならば、本作は「くっそ、全部めちゃくちゃにしてええ」と否応のもなくこみあげてくる感情(あるいは耐えられない病気)とうまくお付き合いしましょう、という映画。
最近の優秀ホラーは、びっくり箱から、心理戦なものが多くなってきているのだろうか。もちろん、びっくり箱もニーズとしてあろうが、こっちのほうが好みと言えば好みだ。
「ババドック 暗闇の魔物」
最初のオープニングから、くっそウザイガキにうんざりして、ベッドから体に巻き付いたガキの手を振り払い、逆向きで寝るシングルマザー。とにかく、このシングルマザーの追い込みが激しい。お産のための病院への道中に交通事故で夫を亡くし(ガキの誕生日が夫の命日)、もともとはライターだったが、今では老人ヘルパーで、まともに会話の出来ない患者を相手にする日々。ガキは(甘やかしすぎたのか、育て方が間違ったのか)人の話を聞かない。
前半のガキのふるまいが、バカなのか、何か見えてるのか、天才なのか、とにかくウザイがうまい演技のせいで前半主人公に同情していく。顔立ちは美人だが、明らかに日々の生活の疲れと化粧を必要としない生活ですっかりババアと化しているので、なおさら同情を誘う。
そんなとき、本棚に「Mr.ババドック」という童話を見つける。
本作は「イット・フォローズ」と違い、音はほぼ効果音のみ。だがこれもアメリカのホラーではなく、イタリアン・ホラー(厳密にいうとイタリアン・オカルト)のテイストが画面を支配する。
変貌する姿が「シャイニング」(ガキが「ババドック」が見えるということも含め)に似ているが、「エクソシスト」、もうちょい言うと、その亜流だが、イタリアのオカルト映画「デアボリカ」によく似ている。
主人公の顔も似ているし、ママさんの集まりで、急に言葉を荒げたり、汚ったねえ単語をガキに向かって吐いたり、思いっきりネタバレだが、後半やっていることもよく似てくる。
後半は主人公自身が「LET ME IN」を叫ぶ通り、ババドックとは、彼女自身にある存在。乗っ取られたようなシーンがあったり、ラストの地下室のシーンもあるが、地下に入れておいて、たまにかまってやる(かまってやるモノがまたエライものだが)「自身の闇」との上手な付き合い方を憶えていくことで本作は終わる。
ちなみにミミズは血栓除去(詰まりを流す)の効果がある。
(ちょっと深読みすぎ)
ガキにババドックは見えている。それはそうだ。目の前にいるのだから。お母さんもババドックと上手に使う(発揮)することで、ガキの「躾」にもなるのだ。
しかし、ガキのほうは、地下室はもっと大きくならないと、入れない。まだ「ババドックとのつきあい方」を学ぶ必要ないからだ。母が「ババドックだから」必要ないのだ。
いずれは自分で飼いならす必要になるだろう。誰にとっても。
これが前向きの映画だということは、最終的に「私は負けない」というセリフで十分わかることだが、それに行きつくまでには、とっても苦難な道のり故、この映画、気安く観てはいけない。特にシングルマザーには。
けれども、この映画、シングルマザーの応援歌であることには間違いない。
本作、女性監督とのこと。なるほど。