オーバー・フェンスのレビュー・感想・評価
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函館3部作の3本目 山下敦弘監督らしさが佐藤泰志と融合する面白さ
「海炭市叙景」は熊切和嘉監督、「そこのみにて光輝く」は呉美保監督、そして「オーバー・フェンス」は山下敦弘監督と大阪芸大出身の映像作家が3人続く面白さとともに、それぞれの個性が佐藤泰志という夭折の作家が放つ個性と対話を重ねたかのような融合を見せており、実に興味深い。オダギリジョー、松田翔太、蒼井優という日本映画界きっての実力派が佐藤の故郷である北海道・函館で撮影に臨んだというのも意義深い。
難しかった
芥川賞候補者の作品
おそらく原作者は芥川賞でも直木賞でも行けるラインを狙って書いたものと想像する。
この作品 わかるようで非常に難しいように感じるのは、やはり自分をぶっ壊れていると言った「サトシ」という女の存在だろう。
「名前で苦労したけど親のこと悪く言わないで、頭悪いだけだから」
タイトルの意味が次第に解ってくるような作りは非常に面白いが、やはりそこにもまた難しさを感じる。
何故ソフトボールなのか? なぜその大会が必要なのか?
鳥のケージ
自然のままの鳥たちがする求愛ダンス
実家の敷地内に作った離れで暮らすサトシ
垣間見れる確執
サトシが求めている愛情は、おそらく「本当の愛」であるが、何が本当なのかがわからないことが彼女自身を苦しめているのかもしれない。
サトシの中にある、ある種の強い思考は「~ねばならない」というような断定した在り方を求めている、少なくとも動物園で暴れたあたりでは、「求めていた」のだろう。
白岩の「お前はお前のままなんだよ」という言葉によって、サトシは何かに気づいたのだろう。
ただ、彼女が何に血迷っていて、何に気づいたのかというのは、なかなか言葉にできるものではない。
つまりうまく解釈できなかった。
サトシは流し場を使って、鳥が水浴びするように体を洗う。
「これやらないと体が腐るような気がして」
白岩と元妻を見ていた後、同じように激しく水浴びをした。
サトシにとって身体が腐るとはどういう意味なのだろう?
「汚れてしまう」
その汚れの原因は、自身の中にある「本当の愛」ではない「汚れ歪んだ感情」なのではないだろうか?
自分自身を保っていたサトシだったが、白岩とのSEXの後、突然切れたようになった。
彼女にとって我慢できなかった「指輪」
サトシが求めていた愛とは、おそらく純愛という言葉が持つ意味のようなことだが、当然過去など気にならず、しかし今指輪をしているにもかかわらず他人とする行為とそうさせた自分に対する怒りだろうか?
この癇癪のような感情
対照的なのが白岩の心
彼は妻をおかしくさせた。
その原因は明確ではない。
でも妻が会いに来て、もうすっかり良くなっていて、「これからは連絡を取り合いましょう。写真を送るわ」と言った言葉に泣いた。
妻も娘も健康を取り戻したことと、自分自身の慚愧の念というのか贖罪というのか、そんなものができたような気がしたからだろう。
サトシが、そこに見てしまった「純愛」
サトシは愛情というものをうまく捉えきれずに大人になった女性だろう。
純愛を見て「汚れ」を感じたのだろう。
それこそ自分自身の内面を見たことで起きたこと。
それが動物園の動物を逃がしてしまう行為に出た。
フェンスの中に閉じ込められていたのは動物ではなく、彼女自身だった。
それを、そのいままでそう思って生きてきた考えを変えたくない。
その反動がでるとき、彼女の癇癪が始まる。
森
彼は「できない」ことで周囲から白い目で見られる存在
しかし彼は突然暴走した。
彼は、日ごろ感じる周囲の冷たさの蓄積によって「壊れた」のだろう。
誰もが無頓着、無関心、無意味、無感情でする冷たい行為によって、人は壊れるのだろう。
函館職業訓練校
そこに集まった年齢の違う人々
それぞれの事情
それぞれの日常
いたって普通であり、その普通の中にある冷たさ
普通だと思っている自分自身は、その中にある小さな異常さを持ち合わせている。
この小さな異常さが人を壊すのだろう。
他者によって壊された森
自分自身によって壊れたサトシ
しかし、
「お前はお前なんだよ」
という言葉の奥にある「そのままの自分でいい」というニュアンス
私が感じたのは、作者が言いたかったことのこのほんの一部分だった。
でもなかなか見ごたえのある作品だった。
ホームラン
かっこよかったー
意外に笑えるシーン多し
題名通り最後はフェンスオーバーのホームラン打つんだろうなと薄々思っていたが、本当に打って終わった。
ストーリーは色々あったし、よく分からなかった事とか全て吹っ飛ばしてヒロインの笑顔でスカッと終わった。
ある意味映画って終わりよければ全てヨシなんだとつくづく思った。
細かい事を言うと北海道訛りのせいか、声が小さいせいかセリフが聞こえ辛いところが多々あった。
観るなら最後まで。
色々屈折した人達ばかりが登場する映画。正直途中で観るのを止めようかとも思ったが、やめずによかった。主人公は屈折しているのではなく、不器用な人だったということか。タイトルの意味は最後に分かる。こういう清々しいエンディングは全く予想出来なかった。
蒼井優という女優は出来る役の幅は狭いかもしれないし美人とはお世辞にも言えないが偶に凄く可愛らしく見える瞬間がある面白い女優だと思う。彼女はフラガールでも福島弁が自然だったが、函館弁も実に自然に聴こえた。函館は何度も行っているが数年ぶりに又訪れたくなった。
生きづらさ
職業訓練校の先生は、人の話を聞けないADHD傾向で、殻に閉じこもり、不器用な森くんは自閉症傾向で、協調性運動障害。
サトシは躁鬱症で、嫁は産後うつだったのだろうか、なんて事を思いながら見ていた。
オダギリジョーは、何やってもうまい。蒼井優の求愛ダンスも、きっと誰よりもハマっていると思う。
原作者を知らなかったのだけど、『そこのみ』も観た。気になる系統の作品。
ドヨーンと暗い日常だけど、最後は少しでも光がさしたのでよかった。
ここのレビューで、『ジム・ジャームッシュ』を引き合いに出していたけれど、うん雰囲気は似ています。確かに。
どんより雲の日にもう一度観たい。
リアル
蒼井優という可能性
山下敦弘ワールド。
この表現は果たして褒め言葉たるのだろうか?自己の表現として、アートとして突き詰める人がいる。興行成績を追うことで何の色も残せなくなった人もいる。自分の好きな曲を自分のタイミングで選曲するDJと、その日のフロアを見渡して状況に沿って選曲を変えられるDJ。
職業こそ違えどだ。映画をエンタメとするならば、やはりその場のオーディエンス込みで作品だと思うのだ。映画はアートだ!と言うのなら、そらもう勝手にどうぞ。という話だ。
オーバー・フェンス。淡々と続く乾いたリアリティと、ふんわりファンタジー風味の空気感?まあそんな感じ。
それにしても蒼井優は凄い女優になったものだ。単なるメンヘラに見えて、彼女の演技からは一本スジの通った光を感じる。だから、恐くもあり、切なくもあり、愛しくもある。オダギリジョーは、いつものオダギリジョー(及第点という意味です)。
見どころも見応えも、9割5分を蒼井優が占めている作品です。
【普通に生きる/死んだように生きる/生きる】
人は知らず知らずのうちに、大切な人も傷つけてしまっているのだ。
仕事が好きだったわけじゃない。
普通に働き、普通に結婚し、子供が出来て、普通の人間だと思っていた。
だが、いつの間にか、人を思いやる気持ちを忘れ、身近な人をひどく傷つける。
現代社会に、こんな人は溢れているのではないのか。
函館三部作の最期、この「オーバー・フェンス」で感じられる肌感は、ざらついた感触だ。
自分の想いだけが口からついて出て、周りの人を傷つけてしまう......そう、土埃がまとわりついているのに、気が付かないまま、人と接触しているようなざらついた感じだ。
職業訓練校で年長の学生が、指導員に向かって言う「学校の外には、お前が考えているより色んな人間がいるんだ」とは、いつの間にか、他者を傷つけたり、理解しないことが当たり前のようになった社会への皮肉だ。
”普通に生きてきたと思っていた”白岩
”死んだように生きてきたと言う”聡
白岩は、聡とぶつかり合いながら、聡を理解しようとし、そして、別れた妻の想いも理解しようとしていたのだ。
元気や優しさを取り戻していた元妻。
妻からの決別。
白岩が聡に向かって言う。
「俺はぶっ壊す方だから、壊れているお前より酷いよな」
だが、ここから再び始まるのだ。
省みることを怠ったが、それなりに一所懸命生きてきたのだ。
普通は、失敗や挫折がないことではない。
失敗や挫折が普通であり、それを受け入れられる社会であって欲しい。
グランドの土埃にまみれながらダチョウは求愛のダンスを踊り、打球は土埃をつんざいて飛んでいく。
何にも面白いこと起きてないよ。
離婚して普通になれた。
分からない世界。
三部作
技術訓練校に通っても、その職に就ける人間は数限られている。普通は失業保険目的の者が多いように思う。
どことなく寂れた空気感漂う函館の町。それでも明るくしてくれているのは訓練校のソフトボールの時間と聡(蒼井)の鳥ダンスだ。代島(松田)とも一度だけ寝たことのある聡だったが、白岩(オダギリ)と急接近。自然な流れで関係を結んでしまう。しかし、その後に互いの過去を語り、大喧嘩。気性が激しく、潔癖症的な振る舞い、そして鳥の真似をする風変わりな女だったが、見ている者でも惹かれていく。
オーバーフェンスというタイトルは、最後のソフトボールでのホームランのことなのか、それとも、息苦しい現実から逃げ出したい気持ちを表しているのか、あまりにも現実的な内容なので、映画の中に引きずり込まれそうな印象だ。
メンヘラ女のシーンはもはやホラー感ある
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