アントマン : 映画評論・批評
2015年9月15日更新
2015年9月19日よりTOHOシネマズ日劇ほかにてロードショー
スモール・イズ・ビューティフル。シンプルかつユーモアたっぷりな痛快ヒーロー映画
スーパーヒーロー映画には強大な敵が不可欠だ。そうでなければ観客はハラハラできないし、不利な立場にある主人公が強い敵を破ってこそ、爽快感を味わうことができる。
問題は、強敵との戦いを経験するごとに主人公がレベルアップしてしまうことで、新作を作るたびに、さらに強い敵を登場させなくてはならなくなる。最近のマーベル作品では、宇宙人や人工知能、神様とスケールアップしつづけている。この現状に危機感を抱いたのかどうかはわからないけれど、最新作「アントマン」において、マーベルは真逆の方向に舵を切った。主人公を大きくするのではなく、ミクロ化してしまったのである。
スケールが小さくなれば迫力も減ると思うかもれないが、「アントマン」は違う。アリの視点で見れば、世界は巨大で驚きに満ちているためで、実際、小部屋を舞台に展開するこの映画のクライマックスは、「アベンジャーズ」シリーズにひけをとらない。
ハリウッドにはミクロ映画の系譜があるが、最新のVFXを駆使して実現させただけでも、「アントマン」は見る価値がある。おまけに、最近のマーベル作品はクロスオーバーが多すぎて話が複雑になりすぎるきらいがあるが、「アントマン」は強盗映画の公式にのっとったシンプルなストーリーだし、そのくせ倒錯したユーモアがたっぷり込められていて――とくにマイケル・ペーニャ演じるキャラクターは最高だ――、痛快な作品に仕上がっている。第12作目にして、これほど独創的な映画を作ることのできるマーベルには脱帽だ。
(小西未来)