劇場公開日 2015年12月4日

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SAINT LAURENT サンローラン : 映画評論・批評

2015年12月1日更新

2015年12月4日よりTOHOシネマズシャンテほかにてロードショー

「モードの帝王」サンローランのエキセントリックで複雑な内面を描く

カンヌ映画祭に出品されたベルトラン・ボネロの前作「メゾン ある娼館の記憶」や、それ以前の「ティレジア」を観たことがある方なら、この監督の作品のどこかねっとりとした質感、陰影を帯びた映像美や、退廃と死の香りが漂う世界観にお気づきかもしれない。そんな彼が「モードの帝王」として君臨したイヴ・サンローランに惹かれたのは、納得できる。当時サンローランほど、栄光と破滅の天地を経験し、死の深淵を覗いたデザイナーもいないからだ(生前、死亡説が何度も持ち上がった)。もともと極端に繊細である上に、兵役時代に神経衰弱に陥り、二十代から薬物とアルコールに浸っていた彼は、幸か不幸か若くてして成功を掴む。プレッシャー、時間との戦い、つねに完璧を目指すクリエイターとしての内なる苦闘。それらが彼を侵食し疲弊させていく。プレタポルテ・ラインを開始した翌年の1967から76年までを描いた本作は、サンローランの片腕だったピエール・ベルジェの協力を拒否されたということだが、なるほど、ボネロがここで描くのは、きらびやかなファッションの表舞台ではなく、これまでむしろ隠されてきたこのデザイナーのエキセントリックで暗い内面だ。アトリエは彼にとって徐々に自由な創作の場というよりがんじがらめの仕事場になり、彼はその捌け口を夜の倒錯的な世界に求める。ベルジェという公私にわたるパートナーがいながら、怪しげなディレッタント(高等遊民)の青年に激しく惹かれていくのだ。ブレーキの効かない激情、恍惚、その後に訪れる虚無と焦燥。

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12キロの減量と、控えめな喋り方や独特の身のこなしをマスターした主演のギャスパー・ウリエルは、物真似ではなく、サンローランのこうしたミステリアスな核をとらえてみせた。また出番は少ないながら、長年の疲弊に蝕まれた晩年時代を、ヘルムート・バーガー(「地獄に堕ちた勇者ども」「ルードウィヒ/神々の黄昏」)が体現しているのにも唸らされる。その佇まいはまさに黄昏そのもの、死を静かに待ち受けているような、荘厳な悲しみをたたえている。その他、レア・セドゥルイ・ガレルジェレミー・レニエら若手実力派を揃えたアンサンブル、70’sらしい狂騒に彩られた時代感、サンローランのモンドリアン・コレクションを意識した画面分割によるファッション・ショーのシーンなど、見どころは尽きない。

果たしてその才能がサンローランという複雑な怪物を生み出したのか、あるいはファッション・デザイナーとしての宿命が彼をそうさせたのか。その孤独な背中が、永遠の問いかけをもたらす。

佐藤久理子

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