劇場公開日 2015年5月23日

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チャッピー : 映画評論・批評

2015年5月19日更新

2015年5月23日より丸の内ピカデリーほかにてロードショー

入口は「ピノッキオ」だが、逸脱の仕方が面白い。あえて人間に味方しない蛮勇を買う

モデルは多いが、話の入口は「ピノッキオ」だろう。「フランケンシュタイン」や「ロボコップ」や「ブレードランナー」よりも、「チャッピー」の主人公は、あの木彫りの人形を思い出させる。ただし、途中まで。

映画の題は、主人公のロボットの名前だ。本体は黒っぽい艶消しの金属で、耳はウサギのように長い。もともとはロボット警察部隊(攻殻機動隊を連想させる)の一員だったが、技術開発者のディオン(デーブ・パテル)に人工知能を植え付けられ、言語を解するようになった。舞台は近未来のヨハネスブルク。失礼ながらディストピアに最も近い街だ。

ピノッキオほど勉強嫌いではないが、ナイーブなチャッピーは甘い言葉に乗せられやすい。危難もつぎつぎと降りかかる。ギャングスタの一味にさらわれたあとは、その傾向に拍車がかかる。一味の男女はダディとマミーになりきり、チャッピーに強盗の手口を仕込む。

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もちろん、話はさらに飛躍する。実はギャングスタの一味など可愛らしいものだ。研究所では、野心的な科学者(ヒュー・ジャックマン)が、はるかに悪辣な計画を立てている。

プロットはややもたつくが、監督のニール・ブロムカンプは持ち前の馬力で映画を推し進める。衝撃のデビュー作「第9地区」でもすでに明らかだったが、彼の美点は「人間に味方しない」ことだ。身勝手で強欲な人間のエゴを嫌い、人間に振りまわされるアウトサイダー(「第9地区」のエビや、この映画のチャッピー)にむしろ親密な眼を向ける。

チャッピー」のツボは、このあたりにある。ピノッキオの目標は人間になることだったが、ブロムカンプはそんな馬鹿げた夢をチャッピーに見させない。その結果、暴力は画面にあふれ、野暮ったいほど露骨な感情表現もときおりこぼれる。ここは評価の分かれるところだろうが、私はブロムカンプの蛮勇を買いたい。モーション・キャプチャーでチャッピーを演じ切ったシャールト・コプリーの体技にも一票を投じたい。彼らは、最悪の状況を黙々と生き抜くロボットにエールを送っている。

芝山幹郎

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