マイ・インターン : 映画評論・批評
2015年10月6日更新
2015年10月10日より新宿ピカデリー、丸の内ピカデリーほかにてロードショー
廃れゆくハリウッドコメディの枠組みをも取り払う、見ておくべき重要な1作
妻を亡くして独身老人になっても、太極拳で心と体を整え、ワードローブは現役時代の状態をキープし、70歳の今も社会貢献意欲は全く失せてないベンは、当然、地元ブルックリンの同世代女子にとって美味しいデート相手だ。だが、彼にそんな暇はない。ファッション通販会社の"シニア・インターン=ベテラン見習い"募集に応募したベンは、見事面接に合格して、職場の潤滑油になって行く。
今、社会の枠組みはドラスティックに変化している。嫌々ベンをアシスタントに付けるジュールスは、30歳で通販会社を立ち上げた若き女性オーナーだし、夫のマットは妻のために仕事を捨てた育メンだ。でも、急激な変化に巧く対応できないのが人間。突っ走りすぎて部下を置き去りにしてきたジュールスは新たなCEOの参入を打診され、マットは専業主夫業からこっそり逸脱。そんな時、俄然威力を発揮するのがベンの圧倒的な経験値と、溢れ出る燻し銀のフェロモンだ。
とにかく、ベンを演じるロバート・デ・ニーロが終始チャーミングで観る側の頬は緩みっぱなし。職場に充満する世代ギャップをぎりぎりで切り抜ける時のキョドリ顔、オタク臭ぷんぷんの男性社員に恋のノウハウを伝授する時のドヤ顔、社員のリラクゼーションを担当する美人マッサージ師の際どいタッチに思わず興奮してしまった時のややエロ顔等々、それはまるで、かつて見たデ・ニーロ表情集の集大成のようで和みと感動を与えてくれる。こんなに可愛く、頼もしい70代がいたら、変化によって捻れた世界も矯正されるのではないか? そんな願いを、監督&脚本のナンシー・マイヤーズは劇中でジュールスに代弁させる。曰く「私たち女性はオプラ(・ウィンフリー)に勇気づけられたけど、男はジャック・ニコルソンやハリソン・フォード以来、ろくなのが出て来てないじゃないの!?」
勿論、ロバート・デ・ニーロもその中の一人だ。受けるジュールス役のアン・ハサウェイも、彼女にとって「プラダを着た悪魔」(06)の逆バージョン的設定をテコに、メリル・ストリープから得たものと得られなかったものを、デ・ニーロによって同時に満たしている。これは、廃れゆくハリウッドコメディの枠組みをも取り払う、見ておくべき重要な1作だ。
(清藤秀人)