悪党に粛清を : 映画評論・批評
2015年6月16日更新
2015年6月27日より新宿武蔵野館にてロードショー
レアな変種ならぬ確かなディテールと美学に彩られた本格西部劇
ご存じの通り、アメリカ・オリジナルの伝統的ジャンルである西部劇は、1960年代にイタリアで突然変異したのち、世界中で多彩な新種や珍品が生み出されてきた。北欧のスタッフ&キャストが中心となり、西部開拓時代アメリカの物語を南アフリカ・オールロケで撮ったこの3カ国(デンマーク、イギリス、南ア)合作映画にも、レアな変種の匂いがプンプンする。ところがどっこい、雄大な荒野がスクリーン狭しと広がる序盤を目の当たりにすれば、観客のあらゆる意味での期待や不安は一瞬にして吹っ飛ぶ。そして奇をてらったアクションやデコレーションには目も向けず、このジャンルの王道を今に甦らせようとした作り手のただならぬ本気ぶりを感じ取り、座席で姿勢を正すことになるだろう。
かけがえのない妻子の命を奪われた主人公がならず者を殺し、ならず者の兄である大悪党が主人公への報復を開始する。かつて映画運動“ドグマ95”の一員だったクリスチャン・レブリングは、砂漠を舞台にした異色のサバイバル劇「キング・イズ・アライヴ」で知られるデンマーク人監督だが、本作では馬が吹き上げる砂埃はもちろんのこと、雨と風、闇夜の雷鳴といった自然現象を入念に映像化。巨悪に支配された町の寂れたオープンセット、どっしりとした重みやざらついた質感が伝わってくる衣装、小道具にもこだわり、西部劇の最もポピュラーなテーマ“復讐”を核にしたシンプルなストーリーを豊かに肉付けしていく。月明かりをスポットライトのように設計した夜間シーンの特異な美しさも印象的だ。
デンマークからの入植者である主人公に扮したマッツ・ミケルセンの多くを語らぬ独特の存在感も、本作にミステリアスな奥行きを与えている。怒りも哀しみも押し殺し、ひたすら忍耐強く反攻の機会をうかがうミケルセンと、庶民の血が染み込んだかのような禍々しいエンジ色のコート姿が憎らしいほどサマになっている悪役ジェフリー・ディーン・モーガン。月と太陽、水と炎ほども対照的な両者の対決をクライマックスに据えたこの映画には、監督自身が言うところの「アメリカの古典的な西部劇へのオマージュ」にとどまらない野心的な美学とディテールの成果が、しっかりと熱いエモーションに結実している。
(高橋諭治)