不屈の男 アンブロークン : 映画評論・批評
2016年2月2日更新
2016年2月6日よりシアター・イメージフォーラムほかにてロードショー
日本軍に捕らえられた青年の「人生地獄めぐり」をクールな目線で描写する
ここ5年間で主演作品が「マレフィセント」(14)一本と、女優業がスローダウンぎみなアンジェリーナ・ジョリー。そうした要因の一つにあたるかもしれないのが、監督業との掛け持ちだろう。彼女の監督二本目となるこの映画は、決死の漂流サバイバルに巻き込まれ、あげく日本軍に捕らえられた青年の「人生地獄めぐり」を、クールな目線でもって描写する。役者仕事の片手間にと考えていては、やすやすと手がけられない題材だ。
クールな目線、と感じるのは、ジョエル&イーサン・コーエンらによる脚本がもたらす印象なのかもしれない。第二次世界大戦中に捕虜となった元オリンピック長距離選手、ルイ・ザンペリーニの回顧録を原作としながらも、「戦場にかける橋」(57)に代表される「捕虜収容所もの」の韻を踏むようにまとめた本作は極めて映画的で、人の不幸を神の視座から眺めるような達観さは「ファーゴ」(96)あたりを思わせてしまう。執拗なまでにルイ(ジャック・オコンネル)たちの生死をおびやかす漂流のくだりや、正当な理由もないまま、看守と捕虜が憎しみをエスカレートさせてゆく様子など、悲壮でありながらもどこかシニカルさを覚える。しかも撮影が、コーエン兄弟のお抱えシネマトグラファーともいえる名匠ロジャー・ディーキンスときた。工芸品のように研ぎ澄まされた外観も内容も、まるでコーエン兄弟の監督作に触れているかのようだ。
とはいえ、本作を映画化へと向かわす強い意志がなければ、作品は生まれない。この題材に惚れこんだというジョリー監督にとって、前作「最愛の大地」(11)が戦火の中で虐げられる者に心を向けた作品だったように、今回も戦争捕虜が主人公という点で姿勢や作家性は一貫している。まごうかたなきアンジーの映画だ。
日本軍の捕虜に対する虐待描写がある、という話題が先行し「反日だ」などとネットで叩かれていた本作。だが当該とおぼしき描写は特定の民族を悪しざまにミスリードするものではなく、理不尽な暴力がまかりとおる戦争の本質に触れた、ストーリー上での展開に準じたものだ。作品に直接あたることなく、仄聞だけで批判の拳をあげるのは、劇中で捕虜を殴打する看守、渡辺(MIYAVI)の行為のように理不尽だ。
(尾﨑一男)