ラブ&ピース : インタビュー
園子温とは何者なのか? 長谷川博己&麻生久美子が語り尽くす
園子温とは何者なのか? “園子温イヤー”と言われる今年、メジャー配給「新宿スワン」に「リアル鬼ごっこ」「みんな!エスパーだよ!」、一般人を起用し福島県で撮影した自主映画「ひそひそ星」など次々と新作が公開されるが、ラインナップを見るほど、そして映画監督、パフォーマー、詩人、お笑い芸人という肩書きを知るほどに何者なのか分からなくなる。(取材・文・写真/黒豆直樹)
そんな園監督が、無名時代の25年前に執筆した脚本をほぼ当時のまま映像化した「ラブ&ピース」がまもなく公開。四半世紀も前に書かれたのに現代的であり、「俺の魂の集大成」と公言しているのに「最も園子温らしからぬ」とも言われる本作で、主人公とヒロインを担ったのが長谷川博己と麻生久美子だ。天才? 奇才? コドモ? Who the hell is 園子温――? 2人の口からその答えを語ってもらった。
ミュージシャンの道を断念し、サエないサラリーマン生活を送る鈴木。1匹の亀と出会い“ピカドン”と名付けるも、周囲の嘲笑で思わずトイレに捨ててしまう。だがピカドンが地下の世界で捨てられたおもちゃたちと暮らす老人に拾われたことで運命が動き出す。捨てたピカドンへの思いを歌った曲で再びミュージシャンへの道を歩み始め、スーパースターになっていく鈴木。「地獄でなぜ悪い」に続く園組参加となった長谷川は、演じながら、この寓話的ストーリーに込められた園監督の意図を想像したという。
「捨てたカメの名前がピカドンで、そこにある“エネルギー”みたいなものについても考えたし、亀という存在についても亀の上に世界があるという(亀の上に象がいて世界を支えているというかつての世界の概念)話や、いろんなことを想像しました。でも、園さんに聞くと『そんなこと全然、考えてないよ』って(笑)。園さんはいつも、そうやって質問をかわすんですよ。でも今回は特にラストの展開を含めていままでの園さんの作品とは違う気がするんです。『何か変化があったんですか?』と聞いたんですが、笑って『それは教えない』って(笑)」。
今回、サエない鈴木と心を通わせるこれまたダサくてさえないヒロインを演じた麻生は以前、マニアックな人気を誇ったドラマ「時効警察」で園の演出に触れているが、かつてを振り返りこんなエピソードを披露する。
「当時、(主演の)オダギリジョーさんが園さんとすごく仲が良かったんですけど、よくオダギリさんが『園さんにはゴーストライターがいて、自分では書いてないんだよ(笑)』って冗談で言っていたんです。それを少しだけ真に受けている自分がいて(笑)。もちろん、その後の活躍も見て、そうじゃないって分かっているんですが(笑)、どこかで『もしかして…』と思ってたりして」。
そんな麻生の“疑義”を、このインタビューの最中に一瞬で吹き飛ばしたのが、長谷川の告白。鈴木が歌う楽曲「ピカドン」(作詞・作曲:園子温)について、長谷川は本番に向けて早くギターと歌を練習したいと考え、ずっと園に「早く曲をください」と言い続けて、最後はプロデューサーと共に園監督の自宅まで押しかけたという。
「『早く決まらないと練習できないので』と言ったら、園さんは、じゃあとキーボードを取り出してきて、少し考えた後に『東京オリンピック~♪』とか歌い始めて、その場であの曲を作っちゃったんです(笑)」。
長谷川の言葉に、麻生は「えええ? 天才だ! やっぱり本物だったんですね(笑)」と感嘆。長谷川も「嫉妬しちゃうんですけど、天才なんですよ。それがまたいい曲でじわじわ来るんです」とうなづく。
実は、長谷川は「地獄でなぜ悪い」で園作品に出演するずっと前から、園監督にコンタクトを取っていたという。一見、クールな長谷川だが、その発言からは、破壊的なエネルギーを持つ監督との出会いにより、何かを引き出されたいという俳優としての強い欲望が見え隠れする。
「園さんが『紀子の食卓』を発表して見た時に、すごいなと思って園さんに出演させてほしいとメールを送ったんです。僕自身、まだ映画にも全然、出ていない頃です。なぜか園さんの映画から、内側にある過剰なものを発散しているような部分を感じて、僕自身も20代でそういうのをすごくやりたかったんです。この人の作品に出たら、そうやって自分を解放できるって気がしたんです。そうしたらその何年か後に『愛のむきだし』を作られて、『あれこそ僕がやりたかったのに!』って感じだったんですけど(笑)」。
麻生も本作に出て、園子温のエネルギーの凄まじさをひしひしと感じた様子だ。
「伝えたいものや思いが直球でバンッと来るのを感じる映画でした。何より個人的に感じたのは、子供に見せたい映画だなということ。西田敏行さんが出てくる地下のパートを見たら、子供も何かを感じると思う。改めて、脚本を読んだ時よりも、3倍も4倍も膨れ上がった園さんの勢いみたいなものを見せつけられて、パワフルすぎて若干引くくらい(笑)、すごいものを見たなって思います」。
改めて、園子温によって何を引き出されたのか? 25年前の園監督自身を反映したともいえる主人公を演じて、長谷川はこんな感想を漏らす。
「人それぞれ、みんな心の奥にいろんな感情を持っていると思うんです。それこそ、人間の中で1日のうちに実は何千もの感情が呼び起されているとも言われますが、それを普通はそこまで表に出さなくていいのに(笑)、園さんの映画はそういう部分をうつし出す作品なんですよね。本来、見せなくていい部分を見せているし、そういう部分で自分の内側の感情を引っ張り出して演じているなって思います。そこで園さんは『もっと出していいよ』って背中を押してくれるんです。その時、アドレナリンが出ているのか、我を忘れるような感覚に陥ることがあって、すごく気持ちいいんです」。
本作は園監督の私小説的な作品という言葉に、長谷川は「でも、園さんの映画は全部、私小説的であり、だからこそのオーラがある」と指摘。その言葉に麻生は「だから独特なんだ(笑)。答え合わせしているみたい」と納得の表情。一方で麻生の「(アイデアが)尽きてしまわないか心配です」という懸念に、長谷川は「多分、あの人はその時、その時の(目の前にある光景を見ての)気持ちでいくらでも撮れるんだと思います」とも。園子温の奇想天外な内面を体現する存在として、2人がまた新たな面を引き出されて、スクリーンで相まみえる姿を楽しみに待ちたい。