「ワンパターンな教材映画」母と暮せば とみいじょんさんの映画レビュー(感想・評価)
ワンパターンな教材映画
奥底に秘めた怒りを、甘い砂糖菓子でコーティングしたような映画。
広島の原爆を題材にした戯曲『父と暮らせば』を書かれた井上ひさし氏に捧げた作品。松竹120周年記念映画。
だからかな?
USAでの賞を意識しているのか?
『硫黄島からの手紙』で好評だった二宮氏。
ベルリン国際映画祭銀熊賞の黒木さん。
USAでも活躍している浅野氏を端役(『父と暮らせば』と対になる役)ながらも起用。
そしてキリシタンの人々・西洋的な文化。
舞台を意識した?というような脚本、演出。舞台で上演されている様子を想像しちゃう(劇脚本としては高校生作品のよう)。
原爆投下3年後の世。
思いもかけない形で逝かされてしまった者、
残された者の想いが綴られていく。
原爆投下のシーン、長男戦死のシーンは見事。怖かった。
さりげなく画面に登場する負傷者も、生活の一場面に溶け込んで、だからこそ、印象的。
さすが、山田監督と唸ってしまう。
反面、橋爪氏という芸達者を起用しているのに、その最期は台詞で語られる。 原爆症で亡くなられた方についても。
舞台でなら致し方ないのだろうが、せっかく映画なのに、と歯がゆい。(母の日々を丁寧に追っていくだけでも表現できたと思うのだが、それをせずに終盤急展開)
映画版『父と暮らせば』に比べると、目の前で展開される話の迫力はない。どこかで聞いたようなエピソード。それをとっぷり見せてくる演技・演出でもない。戦争のむごたらしい場面を入れろと言っているのではない。
人間の業が美化されているように、私には感じられた。それって…。
人の死の美化。それって、戦前の戦争高揚映画や、国民学校にのっていた『皇軍ラッパ』と同じ発想…。なんだそれ。
それでも、終盤は静かに涙が流れ…と感動で終わるのかと思えば、あのラスト。
頂いたチラシには「監督初のファンタジー」とな。だとしたら、ファンタジーをなめていないか。
これだけの大監督でいらっしゃるのにも関わらず、挑戦する気持ちにはひれ伏しますが、
これだけの良い題材、良い役者を揃えたのだから、普通に撮っていただきたかったです。
(この監督の過去の作品には名作が数々あるけれど、最近迷走気味?)
(原爆・戦争反対を考えさせてくれる映画ならほかにもっといいのあるよ。皆さん、もっとたくさん映画を観ましょう)