バケモノの子 : 映画評論・批評
2015年7月7日更新
2015年7月11日よりTOHOシネマズスカラ座ほかにてロードショー
役所演じるバケモノキャラが魅力的! 夏の王道エンターテインメント
ポスト宮崎駿と期待を集める細田守の新作は、異世界へと迷い込んだ少年の物語。息子の父親となった監督の“願い”が重層的に立ち現れ、ビジュアル的な冒険も刺激的だ。
この世界には我々人間の住む世界とは別に、バケモノたちの住むパラレルワールドが並行して存在している。9歳の蓮は母親を事故で亡くして大人たちに絶望。ひとりぼっちで渋谷の街をさまよっていた蓮の前に現れたのが、バケモノ界から来た熊徹だった。バケモノが暮らす渋天街(じゅうてんがい)へと迷い込んだ蓮は、そこで剣豪の熊徹に“九太”(9歳だから)と名付けられて弟子となる。
よく知っている渋谷の街がさまざまな顔を見せるのには興奮させられるし、渋天街の細かく作り込まれた世界観も圧巻。だが、この作品の魅力は熊徹のキャラクターに負うところが非常に大きい。喧嘩っ早く口が悪く、やさしいのだが素直になれず、身勝手で乱暴。中身はてんでガキなのである。この豪放キャラが、声をあてた役所広司の的確な演技によって生き生きと躍動しているのだ。最初は熊徹に反発していた九太は、熊徹がライバルと対決したとき誰からも応援されないのを見て「こいつもこの世界でひとりぼっちなんだ」とシンパシーを感じることに。そうして強いのに教える才能がまるでない熊徹と九太との間に、喧嘩しながらも“親子”の絆が育っていく描写は、実に愉快で血の通ったものになっている。相手を大切に思うことで、自分も成長していく熊徹。見守る悪友2人組(リリー・フランキー&大泉洋)もいい。
物語は中盤を過ぎ、17歳に成長した九太の登場で変調。九太がリアルワールドの渋谷に舞い戻るのだ。そこで知的欲求を満たすための師となる少女に出会い、2つの世界を行き来しながら自分探しをすることになる。そして心に闇を抱える人物がクローズアップされることになるのだが、この後半は詰め込みすぎて掘り下げが足りず、少々唐突な感じがしてしまうのは残念。しかし、モチーフの1つである「白鯨」を重ねたダイナミックな表現や活劇アクションにはアニメーションならではの醍醐味がたっぷりだし、熊徹の心意気が最後まで効いて心に響く。“あらゆる世代が楽しめる”という謳い文句がダテじゃない、夏の王道エンターテインメントだ。
(若林ゆり)