あの日のように抱きしめて
劇場公開日 2015年8月15日
解説
「東ベルリンから来た女」のクリスティアン・ペッツォルト監督と主演のニーナ・ホス、共演のロナルト・ツェアフェルトが再タッグを組み、ナチスの強制収容所で顔に大怪我を負った妻と、変貌した妻に気づかない夫の愛の行方を描いたサスペンスドラマ。1945年、ベルリン。ネリーは強制収容所から奇跡的に生き残ったものの顔に大きな傷を負い、再生手術を受ける。過去を取り戻すために夫ジョニーを探し出そうと奔走するネリーは、ついにジョニーと再会を果たす。しかし、ジョニーは顔の変わった彼女が自分の妻ネリーであることに気づかないばかりか、収容所で亡くなった妻になりすまして遺産をせしめようと彼女に持ちかける。夫は本当に自分を愛していたのか、それともナチスに寝返り自分を裏切ったのかを知るため、ネリーは彼の提案を受け入れることにするが……。
2014年製作/98分/G/ドイツ
原題:Phoenix
配給:アルバトロス・フィルム
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2021年8月31日
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鑑賞方法:映画館
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ラストの「Speak Low」をジョニーが伴奏して、ネリーが歌うシーンは、スリリングで痺れる。調べてみると1943年の楽曲で、連行される前にネリーが歌ったされる。時間的に合わない気もするが、それは言うまい。伴奏中、収容所で付けられた番号をジョニーは見つけ、エスターがネリーだとやっと気がつく。とにかく、愛について切々と歌うネリーの歌いっぷりが素晴らしい。夫との間にあった愛が、消えていくようにも見えるこのシーンは、それだけで観る価値がある。歌い終わり、屋外の庭に一人出て行くネリー、戦争という悲劇の長いトンネル抜けた後ろ姿が、眩しいばかりに光り輝いていた。そこには、人間の再起する美しさを感じさせる。
2021年8月29日
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鑑賞方法:映画館
その人だ、と分かるのは細部でなく全体の雰囲気や身体の動きによるのではないかとマスク時代の今、思う。顔の半分以上がマスクで覆われていても自分は人に分かられているし随分ご無沙汰の人でもすぐ分かる。
ジョニーはとろいのでなく背景と理由があったと思う。収容所に送られた妻がどんな姿顔かたちであろうと生きて戻るなんて全く考えてなかった。これが一番大きいと思う。次は、目の前の女性が妻であると分かってしまう自分を絶対認めたくなかった。戦後「知らなかった」と言った沢山のドイツ人のように。相手をネリーと認めたら、非=ユダヤのドイツ人である自分はどれだけ責められるか。密告したことも離婚したことも彼女に全部語らなければならない。そして必ず「なぜ?」とネリーから聞かれる。どう答えられる?自分から収容所はどうだった?なんて聞くことも絶対にできない。
ジョニーはネリーに距離をとるよう指示する。自分を愛称のジョニー(Johnny)でなくヨハネス(Johannes)と呼ぶように。互いにSieで話すようにと。駅のホームに降り立って友人との再会クライマックス場面の台詞練習ではdu(そこでネリーはちょっと嬉しそうにする)!でもジョニーとはハグまで、キスは無し。ネリーにとってそれはショックと驚きでも、自分の買い物メモも葉書も靴も切り抜きもとっておいてくれたジョニーだから大丈夫、以前に戻れる、戻りたいと意識的に思考停止したんだと思う。ネリーの弱点でもあり強い所は教養ある豊かな家庭の苦労知らずだったお嬢様気質かも知れない。収容所で辛くて怖い経験をしたのに、あんなに酷い怪我をしたのに、ユダヤでないドイツ人の夫や友達と再会してまた昔のように過ごせると本気で願っていたように思う。
弁護士の仕事をしているレネはドイツ語の歌なんか耳にしたくもないと明確に言うユダヤのドイツ人。だからパレスチナのハイファかテルアビブにネリーと共に移住する計画を立てる。過去を向くネリーが許せない。レネが自分に下した最後の決断、それは全てを捨てて新天地に一人行く割り切りと孤独に耐えられなかったのか、ネリーに「真実を見なさい!」と伝えるためだったのか。絶望だ。
ネリーの気持ちが変化したのは、腕に囚人番号入れなくてはとジョニーに言われた時だ。バスルームに一人閉じこもり自分は囚人番号の入れ墨を2回入れられたと思い知った。1回目はアウシュヴィッツで2回目は夫によって。冷静になり初めて怒りが生まれた。
美しい季節、屋外で「夫」や友達とビールなど飲む、なんとなく気まずい雰囲気の中で。
その後、皆を部屋に迎え入れる、ジョニーにピアノを弾かせる、私はSpeak Lowを歌う。これは事前打ち合わせ無しで決めたこと。私の歌を聞いて。私とあなたで何度も練習したでしょう。ピアニストのあなたならわかるでしょう、私だってこと。腕の番号も見えるでしょう?
おまけ
ジョニー、ジョニーでこの映画見てからマレーネ・ディートリッヒの「ジョニー、あなたの誕生日には」が頭の中で繰り返し流れて困った。
2019年7月12日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル
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ユダヤ人Nellyは強制収容所から奇跡的に生還するも顔面を激しく損傷し、同じくユダヤ人で旧友のLeneの世話になりながら、顔の再建手術を受けます。
相当綺麗に治って美人なのですが、元の自分の顔じゃない!と不満を口にします。収容所で烙印を押されようと、白い眼で見られようと、Nellyはとにかく収容前の自分に戻りたくて、新しい顔の別人に生まれ変わる気などさらさらないのでした。それはあくまでも己と向き合って生きていく勇敢さなのかと思いましたが、そうではなく、戦前の幸せをそのまま取り戻したい一心なのだと気付きました。親族で生き残った者は他に1人もおらず、逮捕まで自分を匿ってくれた夫Johannesを探し出しますが、夫からは驚きの計画を持ちかけられます。
逮捕後2日間の拷問に耐え切れず、妻と引き換えに自由を得たものの、自責の念に駆られ続け…という夫の姿ならまだ理想的なのですが…。富豪のお嬢さんらしく、Nellyも若干世間知らずなのでしょうか。
匿われていた期間は夫が命綱だったし、収容所でも夫を想って耐え忍んだのでしょう。顔が変わった自分に全く気付かないことにショックを受けるも、服や靴だけでなく自分の書いたメモまで捨てずに持っていた夫。死んだと信じ込んでいるだけで、今でも妻を愛しているはず…。気付かないのは顔のせい。「昔のNelly」に近づけば、きっとまた夫婦仲は元通り…と、過去の自分を「そっくりさん」として本人が健気に演じます。
確かに髪を染めて化粧をすると随分変わりますが…、いやぁこんなに分からないものか?というくらい、とにかくJohannesがアホにしか見えません(^_^;)。気付かないのは顔のせいでなく、夫の頭が悪いせい?!早くビンタでも食らわせてやれ!これほどアホな亭主を愛して止まない彼女も気の毒でした。というか、妻を心底愛しているのなら、どこかで生きているかもと希望を持ち続け血眼になって行方を捜しますよね。妻がどんな目に遭ったか知りたくもなければ、過去の決断を反省している様子もないし、生き写しに再び恋したい訳でもない。Johannesはこれからの生活のことしか考えたくないようでした。罪悪感に蓋をしてしまえば、過去は過去、今は今、と切り替えが楽なのでしょう…。
再会した地元の旧友達のやや複雑な表情から、Johannesの当時の行動や本心が汲み取れますし、彼がNellyの美声でようやく気付くシーンもかなりインパクトがあります。自分の生還など待ち望んでいなかった夫に見切りをつけるNellyの視線がまた怖い(^_^;)。
スイスで戦争を生き延びたというLeneは、ドイツを憎み、同胞の死を無駄にすることなく建国に貢献したいと懸命に前を向いているようでしたが…彼女の決断は唐突でやや不自然に思えました。
Nelly, Lene, そしてJohannes。
過去との向き合い方が三者三様でした。
犠牲者に対する義務って何?と自らも被害者であるNellyの問い。
ナチスが負うべき義務なら理解できても、単に同調しただけのその他大勢はどうなんだ?政治家が悪いにしても、法律に従っただけの国民はどうなんだ?
善悪は時代共に変わり、過去を裁く現在の価値観も一定ではない。流動的な世界で「より正しい方向」を見極めるのは容易ではありません。
夫大好きなNellyが傷付くと思って、Leneは真実を言えなかったんでしょうね。まぁ夫の計画を聞いた時に、疑問に思わなければいけないですね。
Nellyは化粧前の方が儚い美しさを感じましたが、これは好みでしょうか。
一度壊れた顔同様、過去の幸せも友情も愛情も、完璧には修復できない。治らない傷、残った傷とどう付き合っていくか。歴史と手術痕には共通点があるようでした。
2018年11月11日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD
開始早々に夫の正体が分かって、さあどうするかという映画だと思ったのですが、特に何もなく従うだけで終わってしまい、不満でした。
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