劇場公開日 2015年4月25日

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「爺いヤクザの仁義をみせてやるぜ!」龍三と七人の子分たち ユキト@アマミヤさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5爺いヤクザの仁義をみせてやるぜ!

2015年5月15日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

笑える

楽しい

単純

「タケちゃんも歳とったのかなぁ~」というのが率直な感想。
この映画は、引退した元ヤクザの爺さんたちが、若い詐欺師集団と対決するお話である。
主人公の龍三(藤竜也)は元ヤクザである。背中一面に彫り物がある。義理と人情、仁義を重んじる「体を張った」古いタイプのヤクザだ。久しぶりに昔の「兄弟分」を呼んで一杯やろうや、と思い立つ。まあ、ヤクザの老人会である。
龍三はある日、オレオレ詐欺にひっかかった。
どうやらこの詐欺グループ、元暴走族などの連中を巻き込んで、合法的な会社組織にしているようだ。立派なビルを借りて事務所を構え、ビジネスとして「オレオレ詐欺」の業務に、日夜いそしんでいる。
「俺たちのシマで、生意気な小僧がなにをしやがる」
龍三じいさんと、七人のヤクザ老人たちは、一致団結して、この詐欺師集団と対決しようとする。それを本作では、全編に渡り、コメディタッチで描いてゆくのである。
安直な世代論にするつもりはなかったのだろうが、本作において北野武監督は「イマドキの若いモン」の、小手先で器用に世の中を渡って行く「ずる賢さ」とか「したたかさ」とかが、もう、ハナについてしょうがなかったのだろう。そういう若い連中に一丁、文句を言ってやろう、もっと真正面にぶつかってみろ、というメッセージ性を僕は感じとってしまった。
ところで僕は以前、レンタカー屋さんで、車洗いのアルバイトをしていた時がある。店舗のスタッフは、店長を含め、皆若かった。春になると、店舗には新入社員が配属されてくる。その働きぶりを見ていたのが、入社数年目の、とある二十代女性スタッフ。休憩時間にタバコのけむりをプカァ~っとフカしながら、彼女が放った一言。
「近頃の若いモンは、全く……」
会社をリストラされた四十八歳、中年オヤジの僕は、その光景を「ふぅ~む」と眺めた。
若いモンには「若いモン」同士で、世代間ギャップがあるのだ。言い出したらきりがない。
まあ、この映画、一般受けはするんでしょうな、と僕は思う。
ただ「アウトレイジ」をすでに観た人が「あれはヨカッたな」とおもって本作を観ると、ちょっと肩透かしを食らうことは確かだ。
「アウトレイジ」は北野武監督の映画作家としての感覚、センス、切れ味の良さ。それを感じさせてくれる作品だった。いわゆる「エッジの効いたヤクザ映画」である。
本作はそれとは全くの別ジャンル、と考えたほうがイイ。あくまで本作は「娯楽映画」であり「コメディ映画」なのである。
にもかかわらず、北野武監督は、本人も意識しないうちに、作品の中にメッセージを込めてしまう。それは映画作家としての性分というか、いわゆる「業」のようなものではないかな? とおもってしまうのだ。
それは映画本編で描かれる、オレオレ詐欺集団の、手口のずる賢さなどに見て取れる。また、その若者たちが、どうしてそのような集団に組み込まれていったのか? その過程は本作では描かれていない。つまり、北野武監督は、本作に登場する若者について「親近感を抱いていない」という立場を取っている。
僕が感じた北野監督の「イマドキの若いモン」への反発、というのはそういうことだ。
それに比べて、藤竜也演じる龍三や、近藤正臣、中尾彬、などのメンツが演じる、爺さんヤクザたちの生態、性分。その「義理と人情と仁義」を重んじる古いタイプのヤクザたちへの哀愁。
「昔は良かったよなぁ~」という北野監督の、ため息とつぶやきを映画の裏側に見てしまうのである。まあ、スカッと楽しめる映画ではあり、クセはなくて、万人向きです。

ユキト@アマミヤ