イントゥ・ザ・ウッズ : 映画評論・批評
2015年3月10日更新
2015年3月14日よりTOHOシネマズ日劇ほかにてロードショー
ディズニーが挑んだダークなおとぎ話ミュージカルは豪華キャストが聴かせる!
スティーブン・ソンドハイムのブロードウェイ・ミュージカル「イントゥ・ザ・ウッズ」がディズニーで映画化されると聞いたときは、耳を疑った。まさかディズニー、本気なのか!? なにしろこの作品は、おとぎ話が“ハッピー・エンド”を迎えた“その後”を新しい解釈で描く、ブラックな物語。つまり、どんな話でも砂糖をまぶしてハッピーエンドにしてしまう“ディズニー的な寓話”へのアンチテーゼなのだから。
登場人物たちは幕開け、「I wish」とそれぞれの願いを歌う。子どもを授かりたいと願い魔女の呪いを解こうとするパン屋夫妻に、「赤ずきん」「シンデレラ」「ジャックと豆の木」「ラプンツェル」が絡み、物語は意外な方向へと展開。シンデレラは王子様と結婚したからって幸せにはなれないし、暗い森は願いを叶えたはずの皆に苦い運命を突きつける。しかし、それを乗り越えたクライマックスには、これまた意表を突くほど前向きな、美しい人間賛歌が心に響きわたるのだ。寓話の世界に人間の本質を落とし込んで新しい教訓を与えてくれる、実に不思議な、魔法のような作品だ。
何を期待するかによって評価は変わるだろう。ロブ・マーシャルは「舞台版を忠実に」映画化することを願ったが、ディズニー的にはあり得ない。まあ舞台ファンとしても、死人が減ったり性的な意味がぼかされたりという改変は許容範囲だ。しかし名曲「Ever After」や「No More」が歌われず、舞台版で物語の意匠を担っていた存在(ナレーターも兼ねた謎の男)が削除されてしまったのは非常に残念。ディズニーファンは、夢を壊すような暗さに面食らうかも。
それでも、ディズニーがよくここまでやったなと思えるし、ミュージカル映画としても、ヒューマンドラマとしても魅力にあふれている。難曲が多いことで知られるソンドハイムの中でも、最もメロディアスで美しい曲が盛りだくさん(口ずさめる!)。しかも綺羅星のような映画スターたちが揃って驚異的な歌唱力で聴かせてくれるのだ。メリル・ストリープ(「マンマ・ミーア!」のときより歌唱力が倍増し!)にエミリー・ブラント(これほど歌えたとは!)、クリス・パイン(王子兄弟のナンバーは爆笑もの!)、そしてアナ・ケンドリック(人間くさいシンデレラが魅力的!)らの歌と演技は、3ツ星レストランのフルコースがごときおいしさだ。
(若林ゆり)