神様なんかくそくらえ : インタビュー
「神様なんかくそくらえ」ジョシュア・サフディ監督が語るホームレスから転身した新進女優の魅力
ニューヨークのストリートで生きる若者たち。「神様なんかくそくらえ」は、ドラッグやアルコールにおぼれながらも、愛を求めてさまよう彼らのひりついた日常をビビッドに切り取った。第27回東京国際映画祭で弟のベニーとともにグランプリ、最優秀監督賞をダブル受賞したジョシュア・サフディ監督が来日し、思いを語った。(取材・文・写真/編集部)
ホームレスの少女ハーリーは、「愛の証に手首を切れ」と命じるエキセントリックな恋人イリヤを盲目的に愛し、抜け出すことのできない泥沼のなか、その日暮らしを繰り返している。この物語は、主演アリエル・ホームズの実体験に基づいている。偶然、街中で出会ったサフディ兄弟が「とてもスター性を感じました。表面的な言い方になってしまうかもしれませんが、独特の美しさがある人だと思いました。僕はダイアモンド地区で別作品のリサーチをしていたのですが、話を聞いてユニークさや力強さを感じたのです」と魅了され、すべてが始まった。
ホームズと親交を深めていったサフディ兄弟は、出会いから4カ月目でホームズに体験をつづるよう提案。完成した自伝を読み進め、「どこが映画的かと考えながら読んだのですが、入り口はイリヤでした」と引き込まれていった。本作では、イリヤはネガティブなドラマと結びついている。「『次にイリヤが出てくるのはいつか』ということ、ネガティブなドラマを求めていることに気が付きました。ある種破壊的な喜びというか苦しみであり、ダークなロマンスを求める部分はヘロインに似ているのかもしれません。魂を代償にしてハイを得るといったところに共感したのです」
「破滅」というテーマは、昔からジョシュア監督の中にあったという。「僕の人生はずっとそうなんです。なぜか、小さい時から苦しむ感覚が僕にとってとても重要で、恋愛も同じでどうしても苦しい方に向かってしまい避けられない。でも同じ境遇で育った弟は逆で、安定、快適、ポジティブさを求めています」
そんな正反対ともいえる兄弟監督がコンビを組むことは、本作にとって欠かせないポイントだった。「この映画のテーマについて、僕は主観的、弟は客観的に見ていました。僕たちは、ドラッグ使用をロマンチックにとらえることはしたくないと思っていたので、ふたつの視点がこの映画には重要でした。また、映画作りはコミュニケーションだと思いますが、ホームレスという一般社会から見えない存在のことを伝えるためには、コミュニケーションがクリアでなければいけないのでないでしょうか。物語はとても小さな話ですが、自伝的なアリエルの視点、主観的な僕の視点、客観的な弟の視点が絡み合うことで、人が注目したくなるようなものができるのではないかと思います」
本作は、ホームズをはじめとした演技未経験なストリートキッズが出演している。飾らない姿で、パワフルでいて刹那的なストリートの魅力である「中毒的とも言える」エネルギーを刻みつける。「彼らは、普通の人が欲しがる物質的な物ではなく、実存的な物を心から求めていて、日々の生活も自分たちで作っています。ドラッグが彼らのリアリティを作っている部分もありますが、自らドラマを生み出しているところに音楽的なものを感じました。僕らが純粋なものを引き出したいと本能的な部分で彼らを追い込んでいたので、彼らも与えてくれたのではないでしょうか」
なかでもホームズは「『今ここに存在する』というタイプで、嵐の中心にいることができる」人間だったという。「物乞いやSMクラブのS嬢などで生活しているのですが、そこにはいつもキャラクターを演じる要素があって、本当の意味でなりきることが必要になります。演技がヘタだと悪い批評が出るということ以上に、お金をもらえないという生死が関わるくらい非常に高いレベルが要求される中で、彼女の演技は面白くなっていったのだと思います」
そんなホームズの運命を左右するイリヤ役に、「どんどん入り込み自分を突き破っていく」役者を求め、「ものすごく役に入り込む」ケイレブ・ランドリー・ジョーンズが起用された。「不可思議な人物であるイリヤをしっかりと理解していて、彼を演じるために実際に路上生活をしましたし、本当にアリエルに恋をしていたと思います。こういう規模の映画に参加することも新鮮だったのではないでしょうか。自由を感じたかもしれないし、ストリートシアターのような楽しさも感じてくれたと思います。時間が経つほど、ケイレブがどれほど自分たちにすべてを与えてくれたのかということが分かり、本当に感謝しています」
今回上映される映像は、第27回東京国際映画祭でお披露目されたものとは異なり、エンディングなどに変更が加えられた。「エンディングの音楽を経済的理由で『インタビュー・ウィズ・バンパイア』から『ヘルレイザー』に変更しましたが、映画としてより適切なものになったと思います。『インタビュー・ウィズ・バンパイア』はアリエルお気に入りの作品で、ロマンチックなこともあって最初は使ったのですが、ピンヘッドが出るホラーの方が良かったかなと」。さらに、「新しいバーションはエンドロールで音楽が流れますが、映画祭バージョンではマイクが話し続けているところにクレジットが出て終わるのです。クレジットが流れているときに音楽がかかる方がクラシックだし、ロマンチックなエンディングにしたかったのです」と新たに仕上げた。
映画作りへのこだわりを語ったジョシュア監督は、リスペクトする日本のアーティストとして黒澤明、宮崎駿、園子温ら名匠から鬼才の名を挙げる。「クロサワは現代映画を作ったと言っていいかと思いますが、自分のアイデアの伝え方はクラシックな方だと思います。また、日本語の勉強で宮崎アニメを字幕なしで見て覚えようとしたことがあって、ミヤザキ映画には個人的な思い入れがありますね。シオン・ソノは『自殺サークル』を見ましたが、作品づくりに大きなインスピレーションを与えてくれました。ベネチア映画祭でお会いした時に短編を見てもらいましたが、人の見方がマクロ的視点というか上から見ているようで面白いし、暴力のとらえ方も面白いです。日本の作品はすごく極端なところがあって、そこにひかれるのです」