マップ・トゥ・ザ・スターズ : 映画評論・批評
2014年12月16日更新
2014年12月20日より新宿武蔵野館ほかにてロードショー
クローネンバーグが悪趣味の核心に映画愛を込めたハリウッド悲喜劇
世の良識を“バッド・テイスト”の毒で撃つカルト監督ジョン・ウォーターズ。彼の今年の映画No.1が「マップ・トゥ・ザ・スターズ」と聞いてさすがと唸った。
確かに鬼才デビッド・クローネンバーグのこの新たな怪/快作がウォーターズのハートを射止めたのは、落ち目のハリウッド女優(ジュリアン・ムーア!)が秘書の前で便器にまたがり放屁する場面があったりする事実とも無縁ではないだろう。あるいは醜聞まみれの“ハリウッド・バビロン”現代版的要素も、映画史の正にも異にも造詣が深いカルト監督の高評価の一因とみていいはずだ。が、“悪趣味”を究める監督の核心にあるみごとにまっとうな映画への愛。それこそがクローネンバーグの描くハリウッド、そこにいる人の、家族の、神聖な悲喜劇に鮮やかに共振しているらしいこと。注目すべきはそこだ。
興味深いのは“ハリウッドっ子”のライター、ブルース・ワグナーが「ザ・プレイヤー」のように映画業界の今を風刺する一作でなくむしろ“ゴーストストーリー”として脚本を書いたと述懐し、クローネンバーグもまた記憶という“ゴースト”に憑かれた人々をみつめたかったと語っている点だ。
実際、焼死した母の名声を超えようとあがく2代目女優は、幼い頃に性的虐待を加えもした母がことあるごとに目の前に立つと怯えている。お子様アイドルも売名行為で見舞った直後に死んだ少女が執拗に姿を現すのに悩み、闇/病みを深めていく。なりふり構わず成功をめざし虚勢を張り、そのくせ胸の真ん中にぽっかりと空洞を抱えた“大人子供”たち。そうして“エンジェルの町”LAに羽をもがれた堕天使然と降り立った少女(ミア・ワシコウスカ!)が断行する血の粛清。その向こうに「ザ・ブルード 怒りのメタファー」を「デッドゾーン」を撮ったクローネンバーグならではの愛の物語が、人間存在の根源的な悲しみが屹立する。そんな世界を目にしたら、あなたも迷いなく最多の★を捧げたくなるだろう。
(川口敦子)