劇場公開日 2015年9月12日

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天空の蜂 : インタビュー

2015年8月24日更新

江口洋介&本木雅弘、邂逅を果たしたビッグネーム2人が抱く思い

ビッグネーム2人の初共演というだけで心が躍る。江口洋介本木雅弘が真っ向対じするサスペンス大作「天空の蜂」。原発が標的のテロという極限の状況下で、2人は共に技術者としてプライドをぶつけ合いながらしのぎを削った。互いに積み上げてきたキャリアをもって邂逅(かいこう)を果たした2人が抱いた思いとは。そして、一家の主としての信念とは…。(取材・文/鈴木元、写真/根田拓也)

スタイリスト/島津由行 ヘアメイク/勇見勝彦(THYMON Inc.)
スタイリスト/島津由行 ヘアメイク/勇見勝彦(THYMON Inc.)

「それぞれに家庭を持つ現実があり、世代も近いので見てきたものも同じだから親近感はありますよね。江口さんはすごくオープンマインドで、素直な情熱のある人への接し方、持っている資質が湯原にうまく反映されている。私は愚痴、へ理屈、自意識からの自虐あたりを糧にして、落ち込みをバネに食いつないでいるところがあるので(苦笑)。そのあたりが三島の内に掘り下げてしまうキャラクターに似通っているかも。そういう意味で、いい組み合わせなんじゃないでしょうか」

こう自ちょう気味に分析する本木。江口も笑いながら聞いていたが、「天空の蜂」で築いたあうんの呼吸で応える。

「ずっと本木さんの作品も見ていましたし、映画であるラインをつくっていった俳優さんだという意識がある。自己をプロデュースされる能力も感じていて、台本を読んでいる時から本木さん演じる三島の映像が見えたので僕もすんなり役に入れたし、違う人だったら重くなってしまう部分を本木さんが演じることで、間口の広がる映画になると思えた。すごくち密ですし、僕も体を張って立ち向かっていく。そういう湯原と三島の関係を、ちゃんと映画の中に収められたのではないかと思います」

スタイリスト/島津由行 ヘア/TAKU(CUTTERS)
スタイリスト/島津由行 ヘア/TAKU(CUTTERS)

最新鋭のヘリコプター「ビッグB」が遠隔操作によってハイジャックされ、原子力発電所の真上で静止。「天空の蜂」を名乗る犯人から「8時間以内に日本の原発をすべて停止させなければ、ビッグBを原子炉に墜落させる」という脅迫状が届く。緊急対策室に呼ばれたのが、ビッグBの設計士・湯原(江口)と、原発の設計士・三島(本木)だ。

東野圭吾氏が原作小説を刊行した1995年が舞台だが、原発が大きなテーマのひとつになっているため映画化に当たっては東日本大震災後の日本も描かれている。2010年からテレビ東京「ガイアの夜明け」の案内役を務め、震災直後から毎年被災地や避難区域を訪ねている江口には響くものがあったはずだ。

「自分たちが3.11を経験した後にこの映画をやる意味という事は考えましたね。言葉にするのはすごく難しいですけれど、もちろん計算されてできた台本ですけれど、劇映画の中で真実味みたいなものをどういうふうに表現するかが僕の中で課題でしたね」

一方の本木は、テレビドラマ「ブラック・ジャック」3作以来、14年ぶりとなる堤幸彦監督作品だったことに加え、さらに一歩踏み込める期待感があったと察する。

「堤さんに少しでも成長した自分を見せられたらという期待と、今回闇を抱えている役だというものを新鮮に感じました。今まで、原発も含め世の中で起きる不測の出来事に対して、自分の立ち位置をはっきりさせてこなかった事に恥ずかしさというか、罪悪感があったんです。そういう自分を戒める気持ちもあって、作品を通じてですが、正面から頭を突っ込んで自分が何を感じ取れるか、見つめてみたいと……」

だが、2人を取り巻く背景は原作以上に過酷になっている。ビッグBに取り残される子どもは、湯原の同僚の子から本人の子となり、家族関係も芳しくない。三島も、家族に関して過去に傷を持つ身だ。これが緊迫感を増幅させるペーソスとなり、2人のキャラクターに確固たる芯をもたらす。

江口「原作が発表された頃の大人は家庭を顧みず、寝ずに働いていましたよね。特に設計士は職場にこもりがちな仕事なので、気づかぬうちに子どもは大きくなって家庭との距離ができていた。だから自分が作ったものを子どもに見せて、父親として認めてもらいたかったんでしょうね。そんな日に大事件が起こってしまう。そこからはもう湯原はパニックで、完全に非日常の中で走っていましたね。普通の父親が子どもに対してどういう希望を残していくかという軸を、どうリアルに見せるかを考えていました」
 本木「ある意味命を懸けながら技術を向上させている仕事ですよね。F1レーサーのように危険と隣り合わせで働いて。しかし、優れた能力を持っている人間でも親子のコミュニケーションがうまく取れなかったことに傷つき、後悔し、ざんげしたくなる。そういう人間らしい業の流れにすごく共感できました。現代的なテーマですが、普遍的な人間関係の切なさに魅かれましたし、そこは素直に受け止めてやりました」

実生活では2人とも家庭を持ち、父親である。互いに毅然とした中にもどこか弱さが垣間見えるキャラクターを演じるうえで、自らの家庭を顧みることはなかったのだろうか。

本木「私たちの仕事もすごく不定期で危うさはあるので、先が見えないという意味では家族も常に同じ不安を抱えていると思います。幸い不定期な分だけ、逆にまとめて家族に向き合える時間を大切にしようとは心がけています。でも、私は自意識に振り回されるので、素直に家族に感謝し、自分をオープンにして思い切りよく家族と楽しむことができない不器用なタイプ。恐らく、江口さんは違うと思いますよ」
 江口「いやいや(笑)。最近、原発についてや、世の中に戦争が起こっている国があるんだと出てくるようになってきましたね。時間がある時は家族とそういう話をするようにしていますけれど、決してそんなに多く向き合えてきたわけではない。僕の場合は、ちょっと休みがあったら海や川や山に連れて行きますけどね」
 本木「今、ひゅんひゅんひゅんって小さくなっちゃった」
 江口「本やゲームなどでは分からない、体で感じることを体験させていくのが僕の役目かなと思って。そう言いながら撮影に入ったら家にいる時間は少ないし、年に何回かですよ。でもその時は濃厚に体を張ります」

このクロストークにも、2人がお互いをリスペクトしている関係であることがうかがえた。俳優デビュー時期は異なるものの、江口は「ひとつ屋根の下」「救命病棟24時」シリーズなどドラマをけん引しつつ、映画にもコンスタントに出演。本木は「おくりびと」をはじめ「シコふんじゃった。」「ラストソング」など映画俳優のイメージが強いがNHKスペシャル大河「坂の上の雲」などでも存在感を放っている。たどってきた道は違うが、共に映画、テレビ界を支えてきたことは誰もが認めるところだ。

スター映画がなくなったと言われて久しい。2人が先頭に立った骨太のサスペンスと重厚な人間ドラマ、そして最先端の映像が織り成す「天空の蜂」が、日本映画の新たな時代を切り開く試金石になるかもしれない。

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