フューリー : 映画評論・批評
2014年11月25日更新
2014年11月28日よりTOHOシネマズ日劇ほかにてロードショー
ディテールにこだわった体感型戦争映画の新たな到達点
なんとか予定通り公開に漕ぎ着けたものの、本作は本国公開のギリギリのスケジュールまで追加撮影やポストプロダクションが行われていた。理由は、製作総指揮/主演のブラッド・ピットと監督デビッド・エアーの並々ならぬディテールへのこだわりだったという。ミリタリーマニアにとっては、「歴史的に最も重要な戦車」と言われる本物のティガー戦車(ちなみに敵軍の戦車です)が劇中で活躍していることが大きな売りとなっている本作だが、ディテールというのはそうしたメカ的な部分だけではない。「本当の戦争とはどういうものなのか?」ということを、物語や思想やロジックではなく、映像のディテールの積み重ねによって観客に体感させること。その点において、本作は「プライベート・ライアン」以降、最も重要な戦争映画だと言える。
「本当の戦争とはどういうものなのか?」。潜水艦隊員としてアメリカ海軍に従軍経験もあるデビッド・エアーは、それを「つらくて、怖い」ものと定義する。どちらが正義でどちらが悪だとか、どちらが勝ってどちらが負けたとか、そんなことは世界史の授業の話でしかない。敵味方関係なく、最前線にいる兵士にとってそれはただ「つらくて、怖い」ものなのだ。本作のタイトルは、主人公たちが乗り込む戦車のニックネームの「フューリー」(=怒り)からとられているが、それが本当に意味しているのは、そんな「つらくて、怖い」最前線にいる人々(兵士だけでなく戦場となった土地の住人も含む)の行き場のない「怒り」だ。
これまでの監督作4本すべてが警察ものという、ジャンルムービーの担い手であったデビッド・エアー。「ワールド・ウォーZ」、「それでも夜は明ける」と、このところプロデューサーとしても非凡な才覚を発揮しているブラッド・ピット。両者にとって大いなる野心作となった本作は、批評面でも興行面でも世界中で見事な成果を収めている。物語の舞台は第二次世界大戦末期のドイツにおける連合軍とナチスの戦いだが、映画史における突出した戦争映画の多くがそうであったように、本作はまさに今この世界で起こっている/起ころうとしている出来事にも通じる、人間という愚かな生き物の本質を暴いた作品でもある。
(宇野維正)