「この作品といい、今年はスパイ映画の当たり年だと思います。」コードネーム U.N.C.L.E. 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
この作品といい、今年はスパイ映画の当たり年だと思います。
映画「シャーロック・ホームズ」シリーズのガイ・リッチー監督による本作は、1960年代に人気を博したテレビシリーズ「0011ナポレオン・ソロ」の設定をベースに拝借。新たな視点でリッチー監督自らが脚本を書き下ろし、製作を担当した作品です。但し、全く新しい作品になっているので、旧シリーズの知識がなくても楽しめました。
なんといってもヘンリー・カビルとアーミー・ハマーというイケメンのふたりによるバディムービーの設定が面白いのです。なんとふたりの関係は、米露の凄腕スパイ同士。仇敵の関係だったふたりがミッションを与えられて組んでしまったから、もう大変。相棒として味方なのか、でもやっぱり敵国同士なのか、ふたりの微妙な関係は、最後まで息をつかせない、スリリングなテンションを生んでくれました。それでいて肩ひじ張らない楽しいスパイ映画に仕上がっているところがいいですね。
また、ド派手な大作感を打ち出さず、懐かしい1960年代テイストを狙った作りもよかったです。遊び心が旺盛で、ふたりのボケと突っ込み的な関係は、随所で笑いも誘ってくれました。
それでいて、結構ドキドキさせるアクションシーンもふんだんに用意されています。なかでも冒頭10分で早くもクラスマックスかと思わせる展開でいきなり引き込まれました。 それは、核兵器開発者の娘で自動車整備士ギャビー・テラーを巡り、米ソのスパイが争奪戦を繰り広げられる展開でした。対決場所は壁に囲まれた東ベルリン。米側のスパイであるナポレオン・ソロ(ヘンリー・カビル)が、執拗に追いかけるソ連側のスパイ、イリヤ・クリヤキン(アーミー・ハマー)の追及を振り切って、いったいどうやってギャビーを連れて西側へ脱出するか、奇想天外なこの脱出劇だけでも、スクリーンに釘付けとなることでしょう。
舞台は、東西冷戦さなかの1960年代。米国とロシア(ソ連)の緊張関係が続く中、両国は、核兵器で世界破滅を企む凶悪テロ計画の情報をキャッチします。
ソロは、カギを握るとされるギャビーを確保するためベルリンへ向かうことに。一方、ロシアのKGBもまた、クリヤキンをギャビーのもとに送り込んでいたのです
ギャビーを確保したソロに当局から驚くべき指令を受けます。核兵器を使ったテロ組織に立ち向かうため、ライバルであるクリヤキンと手を組めと。プレイボーイでお調子者のソロと、真面目だが怒りっぽいクリヤキン。対照的な2人のキャラクターが面白いのです。女の扱いも濃くて情熱的で瞬間的なソロと、女の裏切りに傷ついてしまう純情なクリヤキン。真逆の個性がコンビを組まされたものだから、もう大変!。冒頭から激しく争い、協力する気のない2人でした。それが核テロ攻撃の危機に直面するという共通任務よりも、互いに深手を負った重い傷のある過去に触れあうことで、次第にお互いを認め合っていくところは、なかなかの人間ドラマがありました。バディ・ムービーの典型だけど、今までになかったミスマッチなコンビぶりが、やはり楽しい!ですね。
やがて核テロリストに誘拐された研究者を探すため、ギャビーをおとりに使って、首謀者と思われる人物のパーティに潜入を目論むふたりでした。そこでギャビーの婚約者を演じたクリヤキンは、彼女に次第に本気で恋してしまいます。しかし、ギャビーには秘密があり、そのためにふたりは潜入先で絶対絶命のピンチに陥ります。自分たちがピンチなのに、裏切られてひとり落ち込むクリヤキンの傷心ぶりが可笑しかったです。
ロマンチックでクールな三角関係が、キレのいいアクションの連続で、実にテンポよく描かれていきました。友情か裏切りか。ギャビーをめぐる3人の関係は、ユーモアを交えつつ最後までスリリングなんですね。
本作の魅力は他にもあります。シリアスなスパイ映画とは一味違って、60年代の色鮮やかな時代のムードを伝えるファッションや音楽に加え、ローマなどロケ地の風景もドラマチック。危険なはずなのに軽快なタッチでアクションが描かれるなど、当時の魅力が全編にちりばめられていました。物語も雰囲気も娯楽系スパイ映画の王道なんですが、古さはレトロな魅力となり、むしろ新鮮に見せてくれるリッチー監督の手腕は見事です。
それにしても、「キングスマン」といい、この作品といい、今年はスパイ映画の当たり年だと思います。トリにもまだありますしね(^^ゞ
最後に、カビルといえば、あの「マン・オブ・スティール」(13年)の“スーパーマン”を演じた人。人類のために戦う、筋骨たくましい男を演じた彼がスパイとは、映画を見る前は違和感ありありでした。しかし、これが妙にはまっているのです。あの憂いを秘めた瞳はそのままに、筋肉のせいで上着がちょっと窮屈そうではあります。でも、それでも均整のとれた体形でスーツをびしっと着こなして、なかなかの見栄えでした。
対するイリヤ役のハマーは「ソーシャル・ネットワーク」(10年)で“双子”を演じていたことを覚えている方も多いことでしょう。その彼が、今回は力はめっぽう強いが、性格にやや問題ありの、なまりのキツイ英語をしゃべるロシア人にふんし、アクションもこなし、と見事にスパイになり切っているところにぜひご注目!。
個人的には、ギャビー役のアリシア・ヴィキャンデルがとても可愛く好感が持てました。登場時は、小汚い自動車整備士で男勝りな素っ気ない人物だったのです。それが、途中からお嬢さんっぽい衣装になった途端に、今までの整備士っぽさが消え、一気にキレイな美人に!余りのギャツプに、いや~これには参りましたねぇ。
重要な役どころでちらりと姿を見せるコンビにとって謎の司令塔役のヒュー・グラントは出番は少ないものの存在感は抜群です。これがあのラブコメの帝王なのかと目を疑うほどのキャラチェンジでした。ぜひ今月末公開の『リライフ』での主人公のダメダメぶりとも見比べてください。
彼の活躍は、きっと本作がシリーズされたとき、明かされていくことでしょう。続編が楽しみですね。