ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅 : 映画評論・批評
2014年2月25日更新
2014年2月28日よりTOHOシネマズシャンテ、新宿武蔵野館ほかにてロードショー
夢にすがる人生のおかしさとむごさ。銀色と灰色が眼に残る
黒白というより、銀色と灰色が眼の底に残る映画だ。それもシネマスコープ。アメリカ中西部の寒々とした風景のなかを、足元のおぼつかない老人が歩いていく。気むずかしくて、酒飲みで、判断が怪しくて、つむじ曲がりのウディ(ブルース・ダーン)という老人。
ウディは100万ドルの宝くじが当たったと思い込んでいる。モンタナ州ビリングスの住まいからネブラスカ州リンカーンをめざし、金を受け取ろうとする。もともと彼はネブラスカの出身だ。息子のデイビッド(ウィル・フォーテ)は老体を危ぶみ、同行を申し出る。
そうか、ドラマとコメディを混在させたロードムービーか。設定を聞けば、大概の人はそう考える。監督のアレクサンダー・ペインは、「アバウト・シュミット」や「サイドウェイ」でもこの手法を採り入れてきたが、「ネブラスカ」はもっとミニマリズム寄りだ。舞台は一貫して田舎で、老人とデブの姿が眼につく。登場人物の動きは単調だし、台詞は少ない。素人もけっこう出ている。
ただ、アキ・カウリスマキやジム・ジャームッシュの映画とは匂いがちがう。小さな逸話を積み重ねつつ、ペインはウディの過去をあぶり出す。ばさばさの髪、よろよろした足取り、ときおり眼に宿る狷介な光。こんな老人が一朝一夕にできあがるわけはない。
もうひとつ、ペインは「よどみ」を形にする名手だ。小さな町の人々の滑稽なまでの因循姑息をあばきつつ、そのしんどさも観客に伝える。老いて、衰えて、貧しさに負け、いまにも音をあげそうになりながら、欲と嫉妬心と猜疑心だけは旺盛な彼ら。そんな彼らの姿は、不思議に見飽きない。そして、さらに興味深いのはやはりウディの立居振舞だ。息子が親孝行すぎるのにはやや首をかしげたが、ペインは、夢にすがるほかない人生のおかしさとむごさを見抜いている。あの銀色と灰色は、やはりウディの色だったようだ。
(芝山幹郎)