「日数よりも費用が大変だったろう」超高速!参勤交代 CRAFT BOXさんの映画レビュー(感想・評価)
日数よりも費用が大変だったろう
磐城国の小藩である湯長谷藩は、参勤交代が明けて江戸から自国に戻ったばかりだったが、数日後に幕府の老中から、「5日以内に再び江戸へ参勤せよ」と命じられる。とても無理難題と思える幕府の命令だったが、何としても5日以内に江戸へ参勤するよう、湯長谷藩の藩主と家老たちが、すったもんだありながら江戸へ向う。
2000年以降、時代劇の新時代とも言えるが、本作もまた、「時代劇」という日本映画にとって宝の山の大いなる可能性を示した良作だ。
まさに痛快!と言える娯楽時代劇。
さて、実は「5日で江戸へ参勤」というのは、それほど無理難題ではないと思われる。江戸時代の参勤交代といえば、1日でおよそ平均的に30〜40キロ程度の行進があったとされている。湯長谷藩といえば、現在の福島県いわき市いわき湯本の辺りだ。そこから江戸大手門まで約200キロの行程である。1日約50キロを進めば到着する。たしかに厳しいが、しかしけっして絶対的に無理という話ではない。事実、例えば湯長谷藩よりもおよそ1.8倍も遠方の仙台伊達藩は、8〜9日の行程で2000〜3000人を引き連れて参勤交代していたとされている。小藩なら引き連れる人数もかなり減るし、磐城から江戸なら、十分に5日で到着できる日数だ。もっとも、劇中では「通常の参勤でおよそ8日間」としている。あくまでも「準備万端でも8日間なのに、急に5日では無理」という話だ。
むしろ、財政的な無理の方が難題だったろう。劇中では、江戸までおよそ150両の予算が掛かるとしている。15000石の藩にとって、150両とは年間予算の2%にあたる。現在の国家予算と比較すれば、年間予算約200兆円のうち、4兆円。福島県の年間予算で比較すれば、約1兆円の予算のうち、200億円。これだけの規模が、いきなり必要となるのだ。
史実の湯長谷藩藩主・内藤政醇(佐々木蔵之介)と言えば、厳しい財政の中で倹約した人物である。劇中でも藩の倉には何もないと言っているが、突然の出費は、それだけで藩が財政破綻するほどだったはずだ。
いずれにしても、江戸時代のこうした習慣や制度を上手く使えば、まだまだ日本映画のコンテンツには、大きな金脈が眠っている事になる。
今後も時代劇には注目である。