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歌手/俳優として活躍し、三島由紀夫や寺山修司からの寵愛を受けた謎多き麗人・美輪明宏の人物像に迫るドキュメンタリー。
○出演
深作欣二…『仁義なき戦い』シリーズ(監督)、『バトル・ロワイアル』シリーズ(監督)。
北野武…『バトル・ロワイアル』シリーズ(出演)、『アウトレイジ』(監督/脚本/出演)。
宮崎駿…『となりのトトロ』(監督/脚本/原作)、『千と千尋の神隠し』(監督/脚本/原作)。
豪奢なドレスに黄金色の長髪という奇天烈なルックス、ビブラートがかった艶やかな声音、知性と教養に裏打ちされる含蓄に富んだ言葉。直接会ったら平身低頭してしまうこと請け合いの、強烈なオーラを放つ謎の人物、美輪明宏。一体此人は何者なのかと、頭を抱えた人も多いのではないだろうか?
監督を務めるパスカル=アレックス・ヴァンサンもその1人。彼は元々フランスで日本映画の配給業務に携わっており、のちに映画監督としてデビュー。近年ではアニメ監督・今敏のドキュメンタリー『今敏ー夢見る人』(2021)の監督を務めるなど、日本映画に対して深い造詣を持つ人物である。
『黒蜥蜴』(1968)で女賊・黒蜥蜴を演じた丸山明宏(美輪明宏)。この映画を鑑賞し、その圧倒的な存在感に強い衝撃を受けたヴァンサンは彼のドキュメンタリーを制作することを決意し、本人へのインタビューを敢行した。
本作では美輪明宏の波瀾万丈な半生を、当人の証言と共に振り返る。『黒蜥蜴』や舞台『毛皮のマリー』(1967)、『もののけ姫』(1997)のアフレコ現場など、貴重なアーカイブ映像も豊富に差し込まれており、美輪さんの半世紀以上にも及ぶ表現の数々を目の当たりにしながら、彼が戦後の日本文化に与えた影響の大きさを学ぶことが出来る作品となっている。
前半では役者/シンガーソングライターとして美輪明宏が打ち立てた功績を、後半では日本の芸能界で初めて同性愛者であること公表した美輪明宏が社会に与えた衝撃を解き明かしていく。
戦後直後から現代に至るまで、その破格の個性で既存のしきたりやルールをぶっ壊してきた美輪明宏。当然ながらその道のりは険しいものであったことが、このドキュメンタリーから読み取れる。それでいて本人には一切の悲壮感がないのだから、美輪明宏という人物の大きさに改めて驚かされた。
印象的だったのは美輪さんの「衣装」に対する捉え方。
衣服を脱いだ裸の肉体にこそその人の実存が現れると説いている一方で、本人は華美なドレスを身に纏うことで「美輪明宏」という人格を演じている。
衣装は全てインチキであること、そして人は身なりに騙されるということを的確に見抜き、徹底したセルフプロデュースにより丸山明宏から美輪明宏へと意識的に変身したことがこのドキュメンタリーからはわかる。
人が見ていないところでは、美輪明宏から丸山明宏に戻るのだろうか?それとももうその2つの人格は混じり合い1つになっているのだろうか?そんなことを考え始めるとますます美輪明宏という人物像があやふやになってゆく。やはりこの人は稀代の怪人物なのだ。
三船敏郎、三島由紀夫、寺山修司、北野武、宮崎駿など、戦後日本を代表する文化人たちと繋がりを持ってきた美輪さん。進駐軍キャンプへのドサ回りや、全共闘/全学連の学生たちとの邂逅など、出てくるエピソードの数々は正に日本の近代史そのものである。
この映画では語られなかったが、幼少時には長崎で原爆の被害にも遭っている訳だし、映画の共演者には高倉健や菅原文太、美空ひばり、力道山など錚々たるメンバーが揃っている。なんかもう和製『フォレスト・ガンプ』(1994)じゃんこの人の人生って💦すごい人とおんなじ時代に生きてんだなぁ…と思い知らされました。
残念だったのは関係者インタビューが少なかったこと。横尾忠則と深作欣二(アーカイブ映像)くらいしかインタビュイーがいなかったのはちと寂しい。三島由紀夫が美輪さんについて語った映像とか肉声テープって存在してないのかね?
せめて、北野武や宮崎駿がインタビューに応えてくれていたら、この映画の価値もドカッと上がったことだろう。
美輪明宏を学ぶということは日本近代芸能史/LGBT史を学ぶということと同義である。いややっぱり美輪さんって凄いわぁ…。
ランタイムは60分程度と短めなので、サクッと気楽に鑑賞することが出来る。美輪さんに興味がなくてもバンバンビッグネームが出てくるので決して退屈はしないはず。
数々の文化人の間を渡り歩いた稀代のファムファタル、その生き様から多くのことを学びましょう✨