猿の惑星:新世紀(ライジング) : 映画評論・批評
2014年9月16日更新
2014年9月19日よりTOHOシネマズ日劇ほかにてロードショー
娯楽性と硬派なテーマを見事に両立させて、無敵のシリーズに成長
まずは、スクリーンに猿(及びほかの動物)しか出てこない冒頭15分余りがとんでもなく素晴らしい。作品冒頭における猿のシーンといえば、映画ファンなら誰もが「2001年 宇宙の旅」を思い浮かべるだろう。オリジナル版「猿の惑星」の1作目が公開されたのは、「2001年 宇宙の旅」と同じ1968年(なんと日本公開は同じ週だった)。いずれもSF映画ブームの先駆けとなった不朽の名作だが、映画史において絶対的な地位を築いた「2001年 宇宙の旅」と比べて、「猿の惑星」は長らく単なる娯楽作品として軽んじられてきた節もあった。モーション・キャプチャー技術がもはや進化の過程ではなく完成形に達したと言うべき本作「猿の惑星:新世紀(ライジング)」冒頭の目を見張るアクションシーンは、そんな「猿の惑星」から映画ファンへの約半世紀越しの回答なのではないか。
前作「猿の惑星:創世記(ジェネシス)」が何よりもその秀逸かつ綿密な脚本によって高い評価と支持を得たように、本作もまた、その練りに練られたストーリーに夢中になっているうちに、あっという間にクライマックスがやってくる。前作と比べると前シリーズの細部へのオマージュ要素は少なめだが、本作における重要なテーマとなるのは前シリーズの有名な格言、「猿は猿を殺さない」である。人間は人間を殺す。猿は猿を殺さない。したがって、人間は猿よりも劣る。そんな猿側の正義を担保していた三段論法が、しかしここでは崩れていく。そこに敢えて踏み込むことによって、我々が生きている現実の世界において絶え間なく戦争/紛争が起こり続けているメカニズムを解き明かしていくのだ。
舞台となるのは、前作から10年後のサンフランシスコ及びその郊外の森で、その“外の世界”で他にも生き残っているはずの人類について、本作はほとんど描いていない。原題の通り、これはまだ“DAWN”=夜明けでしかないのだ。ストーリー上においても、本作が世界各国で前作以上の大ヒットを記録したという点でも、今後も必然的に大幅なスケールアップが約束されている本シリーズ。ハリウッド大作好きならば、これを見逃すという選択肢は考えられない。
(宇野維正)