カサンドラ・クロス

劇場公開日:

カサンドラ・クロス

解説

ジュネーブにある国際保健機構に侵入した過激派ゲリラが研究中の伝染性病原菌を浴びたまま逃亡。追跡調査を開始したアメリカ陸軍情報部のマッケンジー大佐はゲリラが大陸横断列車に乗り込んだことを掴む。客を乗せたまま密閉された列車はコース変更し、カサンドラ・クロスと呼ばれる鉄橋へ向かうことに。大佐は細菌の処理と事件の隠蔽をたくらんでいたのだ。チェンバレン博士を始めとする乗客たちは抵抗を試みるが……。オールスター・キャストによるパニック・サスペンス。

1976年製作/128分/G/イタリア・イギリス合作
原題:The Cassandra Crossing
劇場公開日:1978年12月18日

スタッフ・キャスト

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Images Courtesy of Park Circus/ITV Studios International Distribution

映画レビュー

4.0救いのない死のスパイラルを予兆させる、異色のパニック映画

2024年2月16日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

午前十時の映画祭13にて。
70年代パニック映画ブームの一作とされる本作。
軍事陰謀サスペンスでもある。

『大空港』(’70)を先駆けに、『タワーリング・インフェルノ』(’74)を頂点とする70年代にブームとなったパニック映画は、スリルとスペクタクルに加えて、オールスター・キャストによるグランドホテル形式の群像劇が特徴の大作群だ。
本作が公開された1976年はブーム終盤の時期で、その後このブームは徐々に終息していった。

本作のクライマックスはカサンドラ・クロス鉄橋の崩落シーンだ。ミニチュア撮影を組み込んだ映像が迫力満点で、こういう特撮も70年代パニック映画の魅力の一つだった。
しかし、わずか1年後に『スター・ウォーズ』が公開され、その視覚効果に世界中が衝撃を受けたのだ。それ以降、スペースオペラやSFが特撮技術発展の題材となったことが、70年代パニック映画ブームに引導を渡したのではないだろうか。
そして、最新技術がパニック映画というジャンルに投下されるようになるのは、20年強待たなければならなかった。

『タワーリング・インフェルノ』に比べると小粒な印象ではあるが、イタリアとイギリスの大物プロデューサーが西ドイツ・フランスなどからも資金を調達して製作しただけあって、ヨーロッパ色のあるオールスター・キャストではある。

最初にクレジットされているのはソフィア・ローレン。
イタリアの女優で、ヨーロッパとハリウッドの両方で活躍していた。スラリと伸びた美しい脚とグラマラスなボディでセックスシンボルと言われた時期もあるが、元々ヴィットリオ・デ・シーカ作品などで演技者として高く評価されていた女優だ。
本作の製作者の一人カルロ・ポンティは夫である。
本作が日本で公開されのは、大林宣彦が撮ったホンダの原付のCMが一世を風靡していた頃だと思う。彼女の出演は日本の興業に大きく貢献したことだろう。
色っぽい演技から体力勝負のアクションまで、芸達者ぶりを発揮している。

二番目にクレジットされているリチャード・ハリスは、アクション映画のヒーローを演じるイメージがなかったが、これ以前に『殺し屋ハリー/華麗なる挑戦』『ジャガーノート』などのサスペンス・アクションに主演していた。
理知的なイメージで、本作での世界的な神経外科医という役に説得力がある。
新婚旅行カップルの新妻を演じたアン・ターケルは当時の奥様。
キャリアの後半は独特の存在感を示した俳優で、私は伊丹十三と重なるイメージを持っている。

バート・ランカスターの名は、主要キャストのトリにクレジットされている。
若い頃はアクションスターでもあった名優で、この頃は風格が伴ってアメリカ陸軍大佐という役に違和感がない。
出番がほぼ指令室のセット撮影だけなのは、出演料を抑えるためか、スケジュール調整ができなかったのかだと思うが、恐らく前者だろう。
国(軍)の立場でミッションを遂行する冷徹な軍人を演じているが、女医と対峙するなかで若干人間味を匂わせているようにも感じる。
『大空港』のオールスター・キャストにも名を連ねていた。

国際保険機構の主任医師としてバート・ランカスターと対峙するイングリッド・チューリンはスウェーデンの女優で、イングマール・ベルイマン作品で知られ、カンヌ国際映画祭で女優賞を得ている。
人道の立場で大佐と対立する強さと、作戦を制することができなかった無力感を表情のみで演じている。

ユダヤ人セールスマンを演じたリー・ストラスバーグという人は、映画にはあまり出演していない舞台俳優であり演技指導者だ。技術で演じるのではなく役の感情を自身の中に作り出して自然に演じる「メソッド演技法」を確立した人…らしい。本作の前に『ゴッドファーザー PART II』でアカデミー賞にノミネートされている。
当初はイカサマ師的な怪しげで快活な老人だったが、列車の行き先がポーランドに変更されたと知ってアウシュビッツの悪夢を想起して怯え、無謀な逃亡を図るという、本作で最大の悲劇を演じている。
ウクライナ(当時はオーストリア=ハンガリー帝国)出身のユダヤ系アメリカ人。

兵器製造業者の妻役のエヴァ・ガードナーも50年代のスクリーンを飾った名女優。キャストクレジットではバート・ランカスターと彼女の二人だけが役名を併記した別格の扱いだ。
フランク・シナトラの元妻でもある。
若い愛人を堂々と列車旅に帯同し、その愛人の正体を知っても動じない貫禄は迫力さえある。

その愛人を演じたマーティン・シーンは、同じ年に公開された『白い家の少女』でジョディ・フォスターを脅かす不気味な二枚目を演じた。
本作でも麻薬密売人の裏の顔を持つ登山家という影のある役で、前髪を垂らした色男ぶりだ。
佳境に差し掛かると活躍の出番が回ってくるが、割とあっけなく非業の最期をとげる。
今のボルダリングの金メダリストクラスが走行する列車で同じことをやったらどうだろうか…と、思ったりした。

その密売人を追って神父になりすまして列車に乗った捜査官をO・J・シンプソンが演じる。この時点ではまだ現役のNFL選手でもあった。『タワーリング・インフェルノ』にも出演している。
登場当初は善人か悪人か分からないキャラクターだったが、自分が盾となって少女を救う。

その少女の乳母役のアリダ・ヴァリはアルフレッド・ヒッチコックの『パラダイン夫人の恋』でタイトルロールを演じ、キャロル・リードの『第三の男』では、有名なラストシーンでジョセフ・コットンの前を通り過ぎて歩み去っていくアンナを演じた人だ。
クロアチア出身のイタリア人女優である。

車掌役のライオネル・スタンダーは見覚えがある気がしたので、アーネスト・ボーグナインに似てるからかと思ったのだが、TVシリーズ「探偵ハート&ハート」の執事役で人気を博した人だった。

アメリカ軍が極秘裏に培養している細菌に感染したテロリストが、上記の豪華キャストが乗り合わせたストックホルム行き特急列車に逃げ込む。
その前に、ジュネーブの国際保健機構本部のアメリカセクションをテロリストが急襲し、逃げた一人が細菌を浴びていたのだ。

感染した犬とテロリストを走る列車からヘリコプターで回収しようとするミッションが、最初のダイナミックな見せ場だが、列車を停めて良いシチュエーションに思えて、引っかかる。
ここでソフィア・ローレンが髪を振り乱して大活躍。

列車内に感染者が続出し、車両を病室代わりにしてチェンバレン医師(リチャード・ハリス)が治療に当たる。
コロナ禍を経験した今の私達は、この光景を絵空事とは思えず、また自ら感染するリスクを顧みず患者に接する医師の姿に畏敬の念を抱くのだ。

マッケンジー大佐(バート・ランカスター)の計画を知ったチェンバレンたちは強硬手段に移る。
ここからは反乱する乗客たちと、自分たちも列車もろとも葬られる運命であることを知らない軍人たちとの熾烈な攻防戦が展開する。
スリリングな緊張感の連続の末に、遂にカサンドラ・クロス鉄橋のスペクタクルに突入する一大アクションであるが、そこに人間ドラマをにじませる演者の力を感じる。

かくして、大勢の犠牲者を出しながらも一部の乗客は助かり、列車を降りて歩き始める。
指令室では、マッケンジー大佐とシュトラドナー主任医師(イングリッド・チューリン)が複雑な空気の中で作戦の終了を迎えていた。
『アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場』で女性政務次官が中将に向かって「恥ずべき作戦」と言うラストのシークェンスを思い出す。
だが、この時点で、大佐も側近のスタック少佐(ジョン・フィリップ・ロー)も現場の状況確認を怠っている。

さて、生き残った乗客たちはいったいどこへ行くのだろう。水も食料も持たず、女子供も連れて森林の中を彷徨わなければならない。
米軍は隠蔽を図っているのだから、救助隊ではなく抹殺するための追手を派遣するのではないか。
米軍が生存者を知る前にポーランドの政府に保護されるだろうか。いや、保護されたとしても秘密裏に米軍に引き渡されそうだ。

生存者の有無を確認しないままミッション・コンプリートを確信している司令室では、マッケンジー大佐がシュトラドナー医師に、医師を続けて欲しいから口をつぐむよう言外に脅しをかける。女医は状況を理解したように大佐を一べつして部屋を出る。
スタック少佐は、司令室を出るマッケンジー大佐に労いの声をかけるが、手元は忙しく作戦の証跡となる書類をシュレッダーにかけている。
そして、彼には上層部から次のミッションが与えられる。残る口封じの対象は、マッケンジー大佐その人なのだ。
だが、そのミッションを遂行したのち、スタック少佐もまた…と考えると恐ろしい。

70年代パニック映画は、大惨事を乗り切って必ず誰かは助かるのがセオリーである。
監督のジョージ・P・コスマトス(当時のカタカナ表記はジョルジュ・パン・コスマトス)は、原案と共同脚本を兼ねている。彼が選んだ結末は、セオリーに従わず全員が悲惨な最期を迎える後日譚しか想像できない救いのないものだった。

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kazz

3.5コロナ禍を予見したような映画

2024年1月24日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館
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peke

3.0改めて思い出したコロナ禍

2024年1月4日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

興奮

午前十時の映画祭で映画館にて。
感染症の封じ込めと感染源の証拠隠滅を同時に行うため、電車ごと事故として処理してしまおうとの軍の計画。それを阻止しようとする乗り合わせた乗客の医師達。

コロナで感染症の恐ろしさを体験しましたが、あまり話題に上がらなくなった昨今。
映画の中だけではなく現実でも起こりうることと改めて思い出しました。

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Kei6

3.5午前十時の映画祭13にて

2024年1月1日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

怖い

知的

午前十時の映画祭13にて

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Yoshi K
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