欲望のバージニア : 映画評論・批評
2013年6月25日更新
2013年6月29日より丸の内TOEI、新宿バルト9ほかにてロードショー
ヒルコート、ケイブ、ピアースの豪州3人組による米国3兄弟実録ドラマ
ボンデュラント3兄弟。いかにも人を食った、しかもまちがいなくワルそうな姓の3兄弟というのがミソだ。胆力無比のフォレストが次男ながらもリーダー格。長男は怪力馬鹿、三男が弱々しいが、コチョコチョと動き、失敗し、ドラマを動かす。死なないという都市伝説に包まれたフォレストに「ダークナイト・ライジング」の顔なき悪役ペインを剛気な肉体で演じつくしたトム・ハーディが映画に安定感と求心力をもたらす。三男ジャックを演じるシャイア・ラブーフの線の細さもみごとに適役だ。ラブーフはあろうことか、厳しい戒律の宗教団体に所属のバーサ(ミア・ワシコウスカ)に一目惚れするわけだが、パク・チャヌクも「イノセント・ガーデン」で見そめたワシコウシカが一枚も二枚もうわてなのはいうまでもない。面白いのはワルの3兄弟、全員がじれったいほど女にオクテなのだ。長男は咆哮するばかりだし、ハーディは経営する酒場に雇った街の女マギー(ジェシカ・チャステイン)にこれまた手も足もでない。禁酒法時代を背景にし、密造酒で稼ぐ、無法3兄弟にとって、女は唯一のタブーのごときものである。
すでに監督のジョン・ヒルコートは「プロポジション 血の誓約」という3兄弟モノの傑作を撮りあげ、オーストラリアの開拓地と原野に哀切な<暴力>と<詩>を出現させた。これはDVDスルー作品であったが、何とか観て欲しい。「プロポジション」の<暴力>と<詩>に欠かせない存在が、オーストラリアの国宝級の音楽家=ニック・ケイブであり、彼の脚本と音楽の寄与は大きかった。さらに大きかったのは主役の次男を演じたガイ・ピアースの存在感。ヒルコートの信頼厚く、「ザ・ロード」にカメオ出演までしてつきあっている。
ヒルコート、ケイブ、ピアースの3人組がオーストラリアからアメリカに舞台を移し、今回は実話ネタの3兄弟モノに挑んだのが本作というわけだ。ピアースが演じるのは新任の密造酒取締官レイクス。ボンデュラント兄弟がまっすぐなワルとするなら、レイクスは身綺麗な曲者、偏執的ワルだ。<逆モヒカン>刈りとでもいいたい頭部センターの剃り込みが画面にテラテラと映えて、凄い。
(滝本誠)