緑の小筐
劇場公開日:1947年11月11日
解説
「風の又三郎」「次郎物語(1941)」「君かと思ひて」などの島耕二監督作品。原作脚色も自身で担当。松下東雄が脚色した。撮影は「街の人気者」「君かと思ひて」の相坂操一、「お嬢様お手を」の渡辺公夫及び柿田勇の分担。なお島耕二は本映画製作の中途に「轟先生」を一本撮っている。
1947年製作/82分/日本
配給:大映
劇場公開日:1947年11月11日
ストーリー
美しい山々に囲れた大自然の中に物静かな妻を相手につつましく炭焼きをしている男があった。彼らの生活は満ち足りてはいたが、しかしそれは刺激のない単調な明け暮れだった。二人の間に設けられた男の子--その幸福を祈る意味において--幸男と名付けられた。しかしその幸福とは何であろうか? ある日、ふと男の胸のうちに真実の幸福を探求する欲望がわいた。それは山に生れ山に育ったものの、まだ見ない世界への憧れであり、また我が子の幸福を希う真摯な願望でもあった。彼はついに海へ出る決心をする。その出発の朝、子供は無心に母の背で眠っていた。月去り年変り幸男は母の慈愛に育まれ自然の懐の中ですくすくと成長していた。一方幾年かの後、夫は今では捕鯨船の乗組員として大洋の波涛と闘っていた。そんなある日、妻の手許へ突然夫の会社から一通の手紙がもたらされる。それは夫の乗る捕鯨船が難破し、そのために夫が行方不明になったという報せであった。若い妻は烈しい不安と哀しみに落ち、絶望のあまりついに病床に就いた。幼いながらも母の看護に懸命な幸男は父を思うのあまり、父親に宛てた手紙を書いた。そしてそれを父の遺した小筐に密封し、滝壷の中へそっと投じた。小筐は幸男の切ない夢を乗せて、遥かな海の父へはかなく流れて行った。谷から里へ、里から野へ、あるときは野猿に拾われ、あるときは雜魚を追う少年たちの手に渡り、ささやかな運命に翻弄されつつ小筐はついに大海に漂い出た。奇跡の旅を続けた小筐はやがて幸にも、無人島に漂着し通りがかりの船に救われていた父親の手にするところとなった。父は再び山へ戻る決心をした。求めてやまなかった幸福のありかを今始めて彼は見出したのである。