多情仏心
劇場公開日:1957年5月7日
解説
里見とんの代表作の一つ、「多情仏心」の映画化。大正末期を背景に愛情の葛藤を描く。「女優(1956)」の新藤兼人が脚色、「若さま侍捕物手帳 鮮血の晴着」のコンビ小沢茂弘が監督、藤井静が撮影した。主演は、「目白三平物語 うちの女房」の佐野周二、「不良女学生」の藤里まゆみ、岡田敏子、「大学の石松 女群突破」の高倉健、大川恵子、「若さま侍捕物手帳 鮮血の晴着」の星美智子、「海の百万石」の三浦光子、「とんちんかん 八百八町」の月丘千秋。ほかに千田是也、岸輝子、山形勲、増田順二、多々良純、加藤嘉、神田隆、中村是好など。東映スコープ黒白版。
1957年製作/96分/日本
劇場公開日:1957年5月7日
ストーリー
親から財産を受継いだ藤代信之は「紀尾井町」と呼ばれ本業の弁護士よりも色事師、道楽者として有名だった。ある日、彼は取り巻き連と柳橋の料亭に遊んだ、そこの女将おもんを知り一夜の夢を結んだが、彼の心はむしろ同席した妹のお澄に強く魅かれていた。お澄もまた彼の面影が忘れられなかった。二人の仲は急速に進んだ。だが、ふとした機会に彼は彼女が、父の仇ともいうべき実業家窪井の妾であることを知り、酔いにまかせてお澄の家に赴き彼女を激しくなじった。一言弁解しようと彼を止める彼女の腕を振り切って外に出た時、突然彼は吐血した。父ゆずりの胃癌……恐れていたものが遂にやって来たことを彼は覚った。そんな頃、取巻作家の一人三好が、信之が資金を援助している同人雑誌の金を使い込んだことが判ったが、それも愛する女のための行為であれば彼は三好を責めることが出来なかった。信之は己れの死の近づくのを知った。ある日、かつて彼が関係を結んだことのある不良少女鈴江を種に、ハーフの普烈が彼をゆすりに来たが、真心の尊さを説く彼の言葉に普烈は真の愛に目覚め、いまは洋妾をやっている与禰子のもとに駈けて行く。そして、その愛故に普烈は与禰子の旦那マッケンゼンを誤って殺してしまう。彼は信之の励ましで自首して出る。信之は一生に一度の弁護を普烈のためにしようと決心した。一方、その頃お澄は胸を患い不治の床にあった。晋烈の公判に、信之は残り少い命を注ぎ込み、弁論の最中吐血して倒れてしまった。愛の中に真実を求め続けた信之の命の灯が消える頃、お澄もまた信之を求めながらその若い生涯を終えようとしていた--。