マダム

劇場公開日:

解説

風俗作家織田作之助の未亡人織田昭子の同名原作の映画化である。「乳母車」の沢村勉と「孤独の人」の中沢信が共同脚色、監督、撮影は「最後の突撃」のコンビ、阿部豊と峰重義がそれぞれ担当した。主演は「危険な関係(1957)」の月丘夢路、「復讐は誰がやる」の左幸子、「街燈」の葉山良二、「フランキーの宇宙人」の安部徹、藤代鮎子、「8時間の恐怖」の金子信雄。ほかに小園蓉子、岡田眞澄、細川ちか子、堀恭子など。

1957年製作/94分/日本
配給:日活
劇場公開日:1957年4月24日

ストーリー

矢田秋子は銀座でも一流のバア“ナシサス”のマダムである。この酒の香と紫煙のうずまく世界には毎夜色と欲のさまざまな花が咲く。赤裸々な男女の人間像に、秋子はこの世を割切って暮しているつもりでも、ふと昔のことを思い出すのであった--彼女はかつて流行作家矢田作之介の愛人であった。しかし、矢田は秋子を愛しながらも、他に何人も女をこしらえた。その上彼は酷いヒロポン中毒であった。それでも、彼女は命がけで矢田に惚れていた。矢田が死ぬと急に周囲は彼女に冷くなった。彼女が正式に妻の座についていなかったからだ。そんな秋子をかばってくれたのは女流作家林ふき子であった。生きるために大阪でバアを開いた秋子は、矢田の生前から秘かに彼女を思慕していた豪商の一人息子で画家志望の杉浦の情にほだされて、二人で東京に駈落ちした。だが、生活力のない杉浦との同棲はたちまち破たんを来した。林ふさ子の忠告もあり、彼女は一人で強く生き抜こうと、中原というある大会社の重役から資金をかりて東京でバアを開いた。これが“ナシサス”であった。ところが、中原は秋子に欲望を抱いて、融資した三百万円の返済をたてに魔手をのばして来た。彼女は金策に奔走したが、ついに方策つきて、中原に呼ばれた待合で自潮的に酒をあおるのであった。酔った秋子に中原の手がのびた瞬間、襖が開いて三百万円の小切手を手にいまは勘当のとげた杉浦が駈けこんできた。そして、感謝に言葉もない秋子に、彼は「ぼくの心の中の秋子に対するほんの餞けや」ときれいに去って行った。秋子は、ひとり、所詮マダム業よりは、妻の座の方が幸福ではなかろうか、と今は、しみじみと心に思っていた。

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