ファウスト(1926)

解説

ドイツの文豪ゲーテが24歳から82歳までかかって書き上げたファウスト、それは古代ドイツの伝説である。多くの作家が或いは劇に或いは音楽にこの主題を取り入れているが、ウーファ社がこれを映画化するに当っては、著名な監督であり文学者であるルドウィッヒ・ベルゲルの書いた脚本『失われし楽園』を土台とし、ハンス・カイザー氏をして創作的な撮影台本を作り上げさせた。監督は「最後の人」と同じくF・W・ムルナウ氏が当り、メフィストには「最後の人」「ヴァリエテ(1925)」等出演のエミール・ヤニングス氏、ファウストにはスウェーデンの名優で「愛の坩堝」出演のエスタ・エクマン氏、グレーチヘンには無名の少女カミルラ・ホルン嬢が抜擢され、その他「シャロレー伯爵」出演のヴィルヘルム・ディーテルレ氏、フリーダ・リヒャルト夫人、ハンナ・ラルフ嬢、イヴェット・ギルベール夫人等が出演している。無声。

1926年製作/ドイツ
原題または英題:Faust

あらすじ

天使は悪魔と賭けをしたのであった。もし汝地上に降りてあのファウストの魂を汚しその「善」を悉く滅したらんには、地上は汝が所有する所たらん、と。そして悪魔は地上へと降りて行った。悪魔はファウストの住む町にその妖術と呪とを以て疫病を蔓らせた。人々は次から次にと疫病の為に死んで行った。偉大なる化学者、医学者たるファウスト博士の力を以てしても、その疫病の伝播を止める術は、死に行く人をこの世に繋ぎ留める術は、求め得なかった。彼は絶望の余り、神を呪い天を呪い、そして魔の力に心ひかれ始めた。その時、メフィストは姿を現し、彼の不滅の霊魂に対し、地上の全ての力を与うる取引を以て彼を誘惑した。ファウストはそれによって死者を蘇生せしむる事が出来た。が、聖なるものを失った彼は十字架に恐れを抱いた。人々は彼に石を投じた。この世に生き永らえる事に憎悪を感じたファウストは毒杯を仰ごうとする。時に再びメフィストは姿を現し、青春時代の幻を以て彼を誘惑した。悪魔の誘惑に負けた彼はその云うがままになった。青春の貴公子ファウストはメフィストの助けを得て地上のあらゆる歓楽を味った。が、彼の心に未だ善は残っていた。彼は故郷に帰りたくなった。故郷で彼は清き処女マルガレーテを知った。メフィストの助けによってファウストは彼女を己が物とした。が、その為に彼女の母と兄とは死んだ。そして彼女は人々から罵られ恥しめられた。その上に彼女は生れた子を雪の夜に死に至らしめた事から、赤坊殺しとして焚刑に処せられ様とした。その刹那に悔い改めたファウストは昔の白髪の老人の姿で馳けつけた。炎の中で二人が抱き合った時、再びファウストに輝かしい青春が帰って来た。愛の勝利であった。二人の霊体は天国の門をくぐったのである。

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映画レビュー

3.5どうする、ファウスト?

2025年3月19日
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知的

『吸血鬼ノスフェラトゥ』(1922)などで知られるドイツの巨匠F・W・ムルナウ監督が文豪ゲーテの代表作『ファウスト』を映像化したサイレント作品。

 表現主義の巨匠らしく、序盤の大天使(たぶん)と悪魔が対峙する場面や、ペストを蔓延させる巨大な悪魔の表現方法には圧倒される。
 一方で、キリスト教の信仰がない立場にとって、大天使が地上の人間を悪魔との賭けの対象にしたり、魔女狩りのようにグレートヒェンを火炙りに処するシーンにはやはり醒めてしまう。

 悪魔メフィストを毒々しくも、どこかユーモラスに怪演したエミール・ヤニングスは本作ののち渡米し、第一回アカデミー主演男優賞受賞者に。
 しかし、トーキー時代の到来を期に帰欧したあとナチスの信奉者になったばかりに、華々しいキャリアも空しく終戦と共に役者生命も潰える。悪魔を演じた役者が本当に闇落ちするという顛末は皮肉というも哀れ。
 ハンガリー映画に『メフィスト』(1981)という作品があったけど、ひょっとして彼がモデル?!と思って調べたら違ったみたい。

 去年、やはりサイレントの『裁かるるジャンヌ』(1928)を観ていなければ大絶賛していた名作。ピアノソロの伴奏も素晴らしい。

 ラストで大天使が「それは愛だ!」と叫ぶシーンは、どっかの消費者金融のCMにそのまま使えそう?!

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TRINITY:The Righthanded Devil