軍使

解説

「テンプルちゃんのえくぼ」「テンプルちゃんの上海脱出」に次ぐシャーリー・テンプル主演映画で、「二国旗の下に」「男の敵」のヴィクター・マクラグレンが相手役を勤める。原作はルドヤード・キプリングの物語で「勝鬨」のアーネスト・パスカルが「彼女の戦術」のジュリエン・ジョゼフスンと協力脚色し、「男の敵」「虎鮫島脱獄」のジョン・フォードが監督に当たり、「テンプルちゃんの上海脱出」のアーサー・ミラーが撮影した。助演者は「小公子」C・オーブリー・スミス「密林の復讐」のジューン・ラング、「結婚劇場」のマイケル・ウェーレン、「15処女街」のシーザー・ロメロ、「小公子」のコンスタンス・コリア、「家族一連隊」のダグラス・スコット、「小都会の女」のウイリー・ファング等である。

1937年製作/アメリカ
原題または英題:Wee Willie Winkie

ストーリー

幼いプリシラはお父さまが亡くなったので和解母親のジョイスと一緒に、未だ会ったことのない祖父に引き取られることになった。祖父は英国インド駐屯軍の司令官なので、母親はアメリカからはるばるとここを訪れた。途中の駅まで出迎えてくれたのは大男のマクダフ軍曹だった。馬車に乗って奥地へ出発しようとする時、原住民の酋長コダ・カーンが変装して武器を盗み出そうとしているのを発見され憲兵に捕縛された。その時カーンは首に掛けていたお守りを落としたのでプリシラはそれを拾っておいた。祖父は非常に厳格な軍人だったので、プリシラはお祖父様に気に入るために自分も軍人になろうと思った。彼女と仲良しになったブランディス中尉はマクダフ軍曹にプリシラを教育するように話した。プリシラと軍曹はすっかり仲良しになって彼は彼女に「ウィー・ウィリー・ウィンキー」と名をつけてくれた。一方ジョイスはブランディス中尉と恋に落ちる。ウィンキー兵卒は練兵場で皆を手こずらしてばかりいたが、カーンがここの牢に入れられたのを見て時々窓の外へ遊びに行った。原住民軍のスパイをしている下男は彼女を利用してカーンに密書を届けその夜舞踏会が開かれている間に突如襲撃した原住民軍はカーンを奪って逃げ出す。国境に暴動が起こってブランディス中尉とマクダフ軍曹は一隊を率いて討伐した。この戦で二人は共に傷つき、軍曹はプリシラに見守られつつついに息を引き取った。プリシラは幼心に英人とインド人の不和を嘆き、カーンに話せば双方の仲は良くなることだと思って夜中に一人で抜出そうとした。スパイの下男は直ぐプリシラをつれてカーンのところへ行く。原住民軍は人質を得て大喜びである。だが、城外へ到着した英軍は司令官発砲を禁じ、自ら単身でカーンを訪れた。プリシラは城門へ走り寄った。彼女の身を気使ったカーンは自軍の発砲を禁じ、プリシラの純情に打たれた両軍はついに血を見ることなく和解が成立した。そしてジョイスとブランディス中尉の上にも幸福な日が訪れたのであった。

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スタッフ・キャスト

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受賞歴

第10回 アカデミー賞(1938年)

ノミネート

美術賞  
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映画レビュー

4.5ジョン・フォード映画に現れた幼い闖入者

2025年1月8日
iPhoneアプリから投稿

馬群、土煙、そして銃。織り成されるは男の男による男のための物語。即ちいつものジョン・フォード。しかしいつもと違うのは、奇妙な闖入者がいること。小役時代の高峰秀子がうんざりするほど引き合いに出されたという、テンプルちゃんことシャーリー・テンプルだ。

幼い少女ほどジョン・フォード作品と隔たりがある存在もない。実際、駆け回る兵士や彼女の背丈ほどもある銃は、彼女が異物であることを殊更に強調する。しかし異物であるがゆえに、彼女だけが戦争というリアリズムの窮状に横っちょから大穴を穿つ権利を有する。

祖父率いるイギリス軍の兵士たちに可愛がられている一方で、イギリス軍が捕虜にしていた反乱軍のリーダーとも友好を結んでいるテンプルは、決して相容れない両者が唯一共有する安全地帯だった。

彼女の幼稚ともいえる働きかけによって、結果的に両軍は和解を果たし、物語は大団円を迎える。子供を絆に対立関係が解消されるというのはいかに子供めいた予定調和だが、そう冷笑するのも憚られるほどに映像の力が漲っていた。

特に、反乱軍の本拠地に乗り込んだテンプルと、彼女を歓待しつつも捕虜化しようと画策する反乱軍、そして彼女を取り返しにやってきたイギリス軍が三つ巴となって緊張関係を演じるラストシーンは息を呑む。

和解か戦争か、一瞬の予断をも許さぬ状況下ではショットの切り替わり一つでさえ大きな意味を持つ。ジョン・フォードの滑らかなカット割りはこういった局面においては恐怖を倍加するものとして表出する。

テンプルがいわゆる「オトコ女」のようなガサツ野郎ではなく、あくまで徹底的に幼いがゆえの放縦さを振り回す子供として描かれていたのもよかった。祖父に面と向かって「戦争なんかやめてよ」と言える一方で、戦争への準備を進める兵士たちの間で不安げな表情を浮かべる彼女のありようこそが本作を傑作たらしめている要因の一つであることに疑念の余地はない。

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因果