生きていた男

劇場公開日:

解説

死んだ筈の兄を名乗る男が現われて女主人公を懊悩させるというサスペンス・ドラマ。スリルを積み上げていって、終末の5分で意外な解決を提示するという手法がとられている。デイヴィス・オスボーンとチャールズ・シンクレアの脚本を「八十日間世界一周」のマイケル・アンダーソンが監督し、「暁の出撃」のアーウィン・ヒリアーが撮影を監督した。音楽は「武装強盗団」のマチアス・セイバー。主演は「十戒(1957)」のアン・バクスターに「揚子江死の脱走」のリチャード・トッド。加えて「戦争と平和」のハーバート・ロム「ヨーロッパ一九五一年」のアレクサンダー・ノックスが助演する。製作は活劇スターである「絶望の彼方に」のダグラス・フェアバンクス・ジュニア。英国側人材が主力を占めている。

1958年製作/アメリカ
原題または英題:Chase a Crooked Shadow
配給:ワーナー・ブラザース
劇場公開日:1958年5月17日

ストーリー

スペインのコスタ・リカに住むキム・プレスコット(アン・バクスター)は、富豪で美貌の主の女性として知られていた。ある夜晩餐会の終ったあとの庭園で、彼女は、いつのまに入ってきたのか、1人の男が勝手にウィスキーを飲んでいるのを発見した。その男は、1年前に自動車事故で死んだ筈の彼女の兄ワード(リチャード・トッド)だと名乗るのである。兄は確かにあの時死んでいるのに……彼女は愕然とした。警察署長パルガス(ハーバート・ロム)がやってきて訊問したが、証明書類や旅券も、手首にある錨の刺青さえもまさしく兄ワードのものなのだ。青ざめたキムをよそに、明くる日から彼は富豪プレスコット家のワードとして振る舞いはじめた。素性の知れぬ家政婦や下男が雇い入れられた。何のための彼の行動か。かつて兄が4マイルのドライヴ・ウェイを3分で走ったことを思い出して、それが出来るかと挑戦すれば、湾に沿った危険な道を、彼はキムをオープン・カーにのせて疾走してみせる。頼りにしていた叔父チャンドラーさえが、甥として彼に疑念なく挨拶するのだ。彼女は父が遺していった巨額の宝石を持っていた。それをこの男たちは狙っているのに違いない。心身ともに疲れ果てた彼女は、宝石を銀行から取り出せる手続きの書類に、謎の男の命ずるままに署名した。これでもう彼等は去っていくに違いない。ところが海岸ぞいの艇庫で放心する彼女に、なおも人影が迫る。恐怖のあまり発射した銛銃を危うく避けて灯の下に現われたのはパルガス署長だった。彼は、謎の男が指紋まで死んだ兄に似せられる筈はないと言う。苦心の末彼女はワードを自称する男の指紋をブランディ・グラスにとった。ところが、それさえが亡き兄と同じものだと署長はいうのだ。遂に彼女は狂乱状態におちいり、自失して叫んだ、--違う、彼が兄である筈なんかない。何故って、兄は私がこの手で殺したのだから……。謎の男たちは互いにうなずきあった。父の遺した宝石、それは正当には、今は彼女の権利を離れている会社のものだったのだ。それを彼女は艇庫の煙突になおも隠して持っていた。兄を名乗る男たちは、実は実際のワードの死因に疑問をもち、この宝石の行方を探る警察当局の人々だったのだ。

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映画レビュー

5.0ミステリーの秀作!

2019年2月20日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

 実際、兄の顔とどれくらい差があったのだろうか、兄ウォード(トッド)を名乗る男と疑い続けるキム(バクスター)との壮絶なる駆け引きが見ている者をも混乱させる。

 兄は一年前に死んだはずだと訴え続けるキム。しかし、状況証拠として、男が持っていた免許証やパスポートは全て彼を本物のウォードだと証明する。警察署長バルガス(ロム)も全く疑わず、本人に違いないと判断する。唯一、キムが死亡確認でアフリカまで行っているのだが、彼女が確認したのだから、それも疑わしいと言われる始末だ。

 本物と認めたくないキムが嘘をついているのか、ウォードが完璧なまでの用意周到さで嘘をついているのか、どちらなのかわからなくするミスリード的ミステリー。レーサーだったウォードの腕を確かめるため、風光明媚な断崖絶壁の海岸線を走らせて確かめようとするキム。「3分半で一周すればOKだな?」などと言い、結果が3分4秒。途中のカーアクションは60年前の映画とは思えないほどの出来栄えで、足が突っ張るほど緊張させられた。

 男が兄ウォードではないことの証明をしようと必死になるキム。雑誌の表紙を飾るほどのスタイルのいい美人(ウェストがMM並み)でもあったことから、ダイヤ会社を経営していた亡父のことも徹底的に調べ上げたに違いない。腕にある錨の刺青、過去に作ってくれたカクテル、キムの謎の行動等々、もうウォード側の目線で見てしまい、バレないようにと願ってしまうほどになってしまった。何しろ、冒頭では相棒の女性ホイットマン(フェイス・ブルック)と密談してるから、怪しいったりゃありゃしない。逆に生意気そうな娘をへこませてやりたい気分になってくるから不思議だ。

 ついに大好きな叔父までもが「久しぶり」とかいってウォードと名乗る男にハグしたりして、徐々に「もしかしたら本当に兄なのかもしれない」と思いもよぎるキム。もしや本当にパニック障害のおかげで兄を信じられなくなっていたのか。などと、両方の視点で物語の顛末を確かめたくなってワクワクする終盤。

 そうだ、指紋で兄じゃないことを証明すればいいんだわ!と、終盤、キムはバルガスを味方に引き入れ、非本人証明を試みる。しかし、ウォードたちは貸金庫のサインや、遺言書のサインを巧みにキムにさせようとし、彼女を殺そうという不穏な動きになるのだった・・・

 スペインのことわざに「秘密を守る者は友を持つ」などと、ジ・エンドのロゴの後に登場する監督(?)のおかげで、誰にも結末を言えなくなってしまう。だから、みんなに観てもらいたい映画になりました。

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kossy