明日なき抱擁
解説
「生活の設計」「路傍」のフレドリック・マーチが主演する映画で、イタリアの劇作家アルバート・カゼーラの戯曲を映画化したもの。「雨」の脚色者マックスウェル・アンダーソンと「裏町」のグラディス・レーマンが、劇作家ウォルター・フェリスの英訳脚本に拠って映画脚色し、「絢爛たる殺人」「ゆりかごの唄」のミッチェル・ライゼンが監督。「恋と胃袋」「ゆりかごの唄」のチャールズ・ラングが撮影した。共演は「ゆりかごの唄」のイヴリン・ヴェネブル、同じくサー・ガイ・スタンディング、同じくケント・テイラー、同じくゲイル・パトリック、ニューヨーク演劇界で活躍のキャサリン・アレクサンダー、ヘレン・ウェストリー、ヘンリー・トラヴァース、キャスリーン・ハワードなどの素晴らしい顔触れである。
1934年製作/アメリカ
原題または英題:Death Takes A Holiday
ストーリー
人間が死を怖れ、生命を惜しむのは何故か、生きていることには何か非常な魅力があるに相違ない……、死神はその魅力を知りたいと思った。或る夜、死神はイタリアのカトリカにあるランバート公爵(サー・ガイ・スタンディング)の邸に姿を現し、自分が人間の姿を借りて訪れるから宜しく、と依頼し、若し自分が死神であると人に告げたら、ランバート家を全滅させる、と老公爵を脅して姿を消した。それから数日後、約束の刻限に死神はサーキ公爵(フレドリック・マーチ)の姿を借りてランバート公爵邸を訪れた。その時から地上では「死」の現象が消滅し、秋だというのに薔薇の花が咲き、エッフェル塔から投身した男が微傷も負わぬという有様だった。ランバート公爵邸に遊びに来ていた伯爵夫人のアルダ(キャサリン・アレクサンダー)とその友人の米国人ローダ(ゲイル・パトリック)は、サーキ公爵を死神とは知らず、その端麗な容貌に魅惑され、色々と彼の機嫌をとってもてなす。その様を恐怖の念に駆られながら見詰めていたのは、ランバート公爵だった。老公爵は、死神の復讐怖さに傍観するより術はなかった。サーキ公爵は彼女らと或いは賭博場に、或いは競馬場にと、歓楽の時を過ごしたが、賭博や競馬に勝っても少しも興奮を覚えず、人間の気狂いの様になって騒ぐのが馬鹿々々しいものにしか思えなかった。アルダやローダが色々と掻き口説くのも、うるさいばかりだ。サーキ公爵は退屈だった。その有様を見て老男爵チェザレア(ヘンリー・トラヴァース)が、人生最大の喜びは恋であると教える。サーキ公爵の恋の冒険は、かくて始まる。しかしアルダやローダを相手には何の悦びもない。サーキ公爵としての最後の日も終わる頃、ロンバート公爵の息子コラード(ケント・テイラー)の許婚グラツィア(イヴリン・ヴェネブル)が、サーキ公爵の前に現れた。彼はランバート邸を初めて訪れた夜、彼女を見てその美しさに心を打たれたのだが、今再びグラツィアに接すると、激しい胸のときめきを感じた。グラツィアもまた、サーキ公爵に心を惹かれ、やがて真剣な恋を彼に捧げる。コラードの憂慮と老公爵の恐怖とをよそに、一途にグラツィアはサーキを恋い慕うのだった。しかし死神のサーキ公爵も、彼女の美しさを地上から抹殺するには忍びなかった。彼は自分は死神であること、自分を愛するには死ななければならぬことをグラツィアに告白して、彼女を地上に留まらせようとする。しかし、グラツィアの愛は絶対で、動じなかった。かくてサーキ公爵が暗闇の世界に戻る時、グラツィアの姿も地上から消え失せるのだった。
スタッフ・キャスト
- 監督
- ミッチェル・ライゼン
- 脚色
- マックスウェル・アンダーソン
- グラディス・レーマン
- 原作戯曲
- アルバート・カゼーラ
- 英語翻訳
- ウォルター・フェリス
- 製作
- E・ロイド・シェルドン
- 撮影
- チャールズ・ラング
- 美術
- ハンス・ドライアー
- エルンスト・フェジッテ
- 衣装デザイン
- トラヴィス・バントン
- エディス・ヘッド
- 特殊撮影
- ゴードン・ジェニングス