「生きたい、ただそれしかない」キャプテン・フィリップス しんざんさんの映画レビュー(感想・評価)
生きたい、ただそれしかない
まず今回はリアリティある映像ではなく、迫力ある、緊迫感ある映像優先になっており、特に救命艇の閉塞感ある撮影は見もの。
全編の緊迫感は、そういう話だから、ていうだけ、って片づければそれまで、映画としてはズルい、のレベルだが、日本でバスジャックの映画なんぞ撮らした日にゃえらいことになるので、それはそれですごいことであるのは間違いない。
ただしこれが主人公の勇気や正義の映画、ソマリアの悲劇も、というにはちょっと違和感がある。
死に直面した男は、生きることに精根費やし、死が待っている男は突き進むことに魂を燃やす。
お互いにそれしか道はないのだ。選択肢は初めからないのだ。
そこには海賊の貧困の環境が背景にあったとしても、主人公からしてみれば、自分の生死のカギを握る絶対悪であるのは間違いなく、相手に対しての同情では決してなく、自分が、仲間が、生き残るため、ただそれだけの理由での行動でしかない。
ラストの彼の嗚咽は、死のギリギリまで相手に自分の命を鷲掴みされていた近況からの解放。
相手への同情なんぞ、ひとっかけらもない。ただ、ただ、それだけだ。
途中、主人公は海賊から、ソマリアの境遇を聞かされ、同情を見せる。それも「自分が生きたいから」の反応に過ぎない。
「小銭をもってさっさと帰ればよかったのに」
これは相手に対しての同情なんてものではなく、さっさと帰ってくれれば、こんな恐ろしい目に合わなくてもよかったのに、という海賊への怒り以外、何物でもない。
題材としては特に新しいものではないが、互いに感情を寄せる籠城モノが多い中、主人公が徹底的に己の命にしがみついた行動を描いた映画はそう多くないと思う。
追記
前半のボート2隻が、主人公の貨物船を追いかける絵が恐ろしい。