ジャンゴ 繋がれざる者 : 映画評論・批評
2013年2月19日更新
2013年3月1日より丸の内ピカデリーほかにてロードショー
死ぬほど痛烈で悪魔的におかしい。文句なしの娯楽映画だ
ジャンゴが繋がれざる者なら、タランティーノは放たれし者だ。大真面目に嘘八百を考え出し、知恵を絞って娯楽映画を追求している。その果実が「ジャンゴ 繋がれざる者」の破天荒な面白さだ。QT、アンチェインド。
「ジャンゴ」は歯切れがよい。おしゃべりで、笑えて、挑発的で、荒唐無稽で、驚天動地で、観客を元気にしてくれる文句なしのバーバル・アクション・コメディだ。私にアカデミー賞の投票権があったら、迷わず7部門に票を投じる。作品賞、監督賞、脚本賞、助演男優賞、撮影賞、音楽賞、編集賞の7冠だ。
まあ、そんなことはどうでもいい。
舞台は南北戦争前夜のアメリカ南部だ。奴隷のジャンゴ(ジェイミー・フォックス)は、元歯医者の賞金稼ぎシュルツ(クリストフ・ワルツ)とテキサスの森で出会って自由の身となる。ジャンゴは、連れ去られた妻を取り戻したい。ふたりは、「殺しが静かにやって来る」のガンマンのような気配を放電しつつ、サウスキャロライナの農園に乗り込む。農園の支配者は、「マンディンゴ」に出てきそうなカルビン(レオナルド・ディカプリオ)だ。カルビンに従う執事は、最悪かつ最凶のアンクル・トムともいうべきスティーブン(サミュエル・L・ジャクソン)。
さあ、駒はそろった。タランティーノは、もともと面白い話を語れる人だ。音楽のような台詞を紡ぎ、細部を濃厚に練り、癖のある登場人物を躍動させる才に長けている。
のみならず、映画史とトリビアを味方につけた強力な武装が加わる。タランティーノは、さまざまな映画からパイプやチューブを通じて養分を吸い取り、無敵の度胸でその養分をリミックスしてみせる。そして見よ、映画が完成された瞬間、彼はもはやパイプやチューブから解き放たれている。「ジャンゴ」は死ぬほど痛烈で、悪魔的におかしな映画だ。「くたばれ、ドジャンゴ!」の台詞を聞いたときなど、私は椅子から転げ落ちるほど笑った。
(芝山幹郎)